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この判決は、懲戒権行使のためには就業規則における懲戒規定とその周知が必要であると判断しました。
事案の概要
(1)会社は、新たな就業規則に懲戒解雇事由を定め、所定の事由があった場合に懲戒解雇をすることができる旨を定めた。
(2)会社は、新就業規則を労働基準監督署に届け出たが、事業場に備え付けていなかった。
(3)会社は、新就業規則により、従業員を懲戒解雇した。
(4)従業員は、本件懲戒解雇が無効であるとして、会社に対して、労働契約上の地位確認請求、損害賠償請求等を行った。
第一審及び控訴審ともに従業員の請求を棄却
判旨・判決の要約 原判決破棄・差戻し
(1)使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する。
(2)控訴審の判断は、本件就業規則について、労働者に周知させる手続を採っているかを認定しないまま、法的規範としての効力を肯定し、懲戒解雇を有効とした点で違法である。
解説・ポイント
本判決を立法化した労働契約法7条にいう「周知」とは、労働者が知ろうと思えば知ることができる状態に置かれたことで足りるとする「実質的周知」をいいます。
「実質的周知」については、情報へのアクセスが可能かどうかだけではなく、アクセスの客体である情報の適切、内容の認識・理解を可能とするような使用者の説明の努力も問われていると理解するべきです。
なお、就業規則が労働契約を締結した当事者に対して労働契約を規律する効力を有するためには、「周知」と「合理性」の要件を満たすことで十分であり、契約当事者間で、労働契約の締結の際に、労働契約の内容は就業規則によることを明示又は黙示に合意したことまでは必要ありません。
労使間でこのような合意がなされたと明確に認定できる場合には、就業規則を内容とする労働契約が個別的に成立したといえることになります。