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この判決は、国は、公務員に対し、国が公務執行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っていると判断しました。事案の概要
(1) 自衛隊員は、車両整備中に、同僚隊員の運転する大型車両に轢かれ死亡した。死亡
した自衛隊員の両親らは、国家公務員災害補償金として76万円の支給を受けた。その
際、自衛隊側からは、公務災害に関しては法律で定められた以上の補償金額増額や年金
はない旨を回答されるに留まった。
(2) 死亡した自衛隊員の両親らは、事故後4年を経て初めて、国に対して損害賠償請求
ができることを知り、自動車損害賠償法3条に基づき逸失利益・慰謝料等の損害賠償請
求をとして各739万円余を請求した。
第一審は国側の時効の抗弁を容れ請求棄却
第二審に際し、控訴人が、国は使用者として安全保護義務を負い、当該義務の不履行がある旨の主張を付加したが、控訴も棄却
判旨・判決の要約 破棄差戻し
(1) 国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等
の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たっ
て、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮
義務」という。)を負っているものと解すべきである。
(2) 右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入
った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方
に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきである。
(3) 国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、民法167条1項により10年と解す
べきである。
解説・ポイント
本判例では、安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められると判示して、労働契約関係にある当事者間においても安全配慮義務が認められる旨を示唆しています。
また、川義事件(最判昭和59年4月10日民集38巻6号557頁)において、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮する義務を負っている」と判示して、労働契約上の使用者が労働者に対して安全配慮義務を負うことを明らかにしています。
このように、従業員が安全に業務に従事できるようになる安全配慮義務の考え方は、裁判例の積み重ねにより判例法理として確立し、労働契約法に反映されています。
労働契約との関係から見た安全配慮義務は、契約上、会社が履行すべき安全や健康に対する措置、配慮が行われなかったことに対する債務不履行責任(民法415条)と位置づけられています。
使用者においては、近年は、過労を理由とした疾患・死亡・自殺が社会問題化するのに伴い、安全配慮義務の内容は、従来のように労働者の身体的な安全を保護対象としているだけでなく、身体的・精神的健康までも対象としていることに留意する必要があるでしょう。