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この判決は,使用者から労働者に対し,前年度の業績評価に基づく年俸額を提示して交渉を行う場合,労働者としてその提示額に応ずるかは自由であり,合意が成立しない場合には,前年度の年俸額をもって,次年度の年俸額とすると判断しました。
事案の概要
(1)会社は,給与規定に明文のないまま年俸制を実施していた。
(2)職員は,個人業績評価のための資料提出を拒んだ。そのため,会社は,これら職員の個人業績評価を確定することができなくなった。
(3)会社は,2年間,職員に対して,従前の給与水準で給与を支給した。
(4)会社は,職員と年俸交渉を行ったが,合意に達しなかった。そのため,会社が作成した個人業績評価に基づき,職員の賃金を減額して支給した。
(5)職員は,従前の年俸賃金との差額賃金とともに,将来分においても現在の支給額との差額を請求した。
第一審は職員の請求を認容
判旨・判決の要約 会社の請求を一部認容,一部棄却
期間の定めのない雇用契約における年俸制において,使用者と労働者との間で,新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は,年俸額決定のための成果・業績評価基準,年俸額決定手続,減額の限界の有無,不服申立手続等が正当化されて就業規則等に明示され,かつ,その内容が公正な場合に限り,使用者に評価決定権がある。
本件について,年俸額決定のための成果・業績評価基準,減額の限界の有無,不服申立手続等については,これが制度化され,明確化されていたと認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,年俸額についての合意が成立しない場合に,会社が年俸額の決定権を有するということはできない。
解説・ポイント
就業規則で年俸制を採用していれば,直ちに賃金の減額が可能であると誤解しがちですが,年俸制は賃金が年単位で定められているにすぎず,直ちに毎年の賃金改定があることを意味するものではありません。そのため,業績評価に基づいて年俸額の減額改定をするためには,別途労働契約上の根拠が必要であり,労働者と個別合意をするか,就業規則上で年俸額の改定を予定しておかなければなりません。