【読むポイントここだけ】
この判決は,通勤災害にあたる通勤の「合理的な経路」について,事業場と自宅との間を往復する場合に,一般に労働者が用いると認められる経路をいい,必ずしも最短距離の唯一の経路を指すものではない。合理的な経路が複数ある場合には,そのうちのどれを労働者が選択しようが自由であると判断しました。
【事案の概要】
(1)原告労働者の勤務している建材店まで自宅から徒歩で通勤していた。原告労働者の自宅近くに住んでいる義父は,障害があり杖なしでの歩行が難しかったため,原告労働者の妻が,ほぼ毎日義父宅に通って義父の介助をしていた。また,原告労働者も,週4日の頻度で勤務終了後に義父宅に立ち寄り,義父の介護をしていた。
(2)平成13年2月26日,原告労働者は,勤務終了後に義父宅に向かい,介助を行った後,自宅に戻るため義父宅を出た。義父宅を出て約15分後,原告労働者は,交差点で原付自転車と衝突し,頭蓋骨骨折の傷害を負った。
(3)原告労働者は,羽曳野労基署長に対して,労災保険法に基づき,本件事故に関する休業補償給付を請求したが,不支給処分を受けたため,審査請求行った。しかし,審査請求は棄却され,再審査請求も棄却されたため,国を相手に本件不支給処分の取消しを求めて訴訟を提起した。
第一審は不支給決定の取消し
【判旨 判決の要約】控訴棄却
(1)原告労働者の移動は,業務の終了により本件事業場から自宅へ最終的に向かうために行われたものであり,労災保険法7条2項にいう「就業に関し」(業務関連性)の要件を満たすものと認められる。
(2)原告労働者の義父宅での介護は,通常通勤の途中で行うささいな行為とは言えず,労災保険法7条3項のいう「逸脱」に当たるから,同条3項ただし書の要件を満たす必要がある。原告労働者の介護行為は,「労働者本人又はその家族の衣,食,保健,衛生など家庭生活を営むうえでの必要な行為」というべきであり,労災保険規則8条1号所定の「日用品の購入その他これに準ずる行為」に当たる。
(3) 「合理的な経路」とは,事業場と自宅との間を往復する場合に,一般に労働者が用いると認められる経路をいい,必ずしも最短距離の唯一の経路を指すものではない。合理的な経路が複数ある場合には,そのうちのどれを労働者が選択しようが自由である。徒歩通勤では,合理的な経路である限り,労働者が道路のいずれの側を通行するかは問わないと解するのが相当である。本件交差点付近についてみれば・・・本件交差点全体が合理的な経路と解するのが相当である。
【解説・ポイント】
通勤災害と認定されるためには,まず,「通勤による」災害であること(通勤起因性。通勤に通常伴う危険が具体化したものであえること)が必要とされます(労災7条1項2号)。労災保険法にいう「通勤」と認められるためには,「就業に関し」,①住居と就業の場所との間の往復,②就業の場所から他の就業の場所への移動,③①に先行又は後続する住居間の移動を合理的な経路及び方法により行わなければなりません。これらの要件の具体的基準については様々な行政解釈・判例が出ています。例えば,高山労基署長事件(岐阜地判平成17年4月21日労判894号5頁)は,日曜日に自宅から単身赴任先の家へ戻る途中の夫の事故死につき,単身赴任の夫が勤務のため,家族がいる自宅から赴任先「社会通念上,就業との関連性が認められ,通勤の要件を満たしている。赴任先までの移動が最短約3時間半かかることを考慮すると,通常は勤務日の前日に移動する」として,「週末帰宅型通勤」に当たるなどとして請求を認め,同労基署長の遺族給付金不支給処分決定を取り消しました。また,終業後長時間の組合活動,懇親会,仮眠等の後の帰宅中の事故などは,通勤災害とは認められない傾向にあります。