読むポイントここだけ
この判決は、親子会社の関係にある2つの会社の子会社の方に雇用された労働者は、親会社に対して、法人格否認の法理により、労働契約上の責任を追及することができる場合があるとしました。
事案の概要
(1) 子会社に期間の定めなく雇用されていた。
(2) 親会社は子会社の財産を実質上支配、管理していた。
(3) 子会社を退職した後、親会社に対して、未払賃金及び未払退職金の支払を請求した。
判旨・判決の要約 一部認容、一部棄却
(1) 法人格が全くの形骸に過ぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用される場合には、法人格を否認するべきである。
(2) 法人格が全くの形骸に過ぎないといえるかは、当該会社の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して判断する。
(3) 子会社は、親会社の一事業部門と何ら変わるところがなく、会社としての実体はもはや形骸化していた。
関連裁判例
最高裁判決平成10年9月8日(安田病院事件)
当該労働者と形式上は労働契約の相手方ではない主体との間で黙示の労働契約の成立を認めました。
解説・ポイント
(1) 法人格否認の法理とは、法人格の独立性を形式的に貫くことが正義・衡平の理念に反する場合に、その事案に限って会社の法人格の独立性を否定することによって、妥当な解決を図る法理のことをいいます。
(2) 裁判例の中には、法人格否認の法理を個別的例外的な救済という位置づけをして、その適用を限定しようとするものがあります。そのため、法人格否認の法理が、すべての事件で統一的に適用されるわけではないことに注意が必要です。