1. 保険給付の内容
災害に関する保険給付としては、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護保障給付の7種類が定められています(労災保険法12条の8第1項)。
健康保険の給付と比較して、労災保険の給付は相当手厚いため、業務上と認定されるか否かは、労働者や遺族にとって重大な意味をもつことになります。ただし、労働者に故意があった場合には保険給付は行われず、また一定の場合には保険給付の全部又は一部が制限されることになります。
今回は最初の2つ、療養補償給付と休業補償給付についてご紹介致します。
まずは、療養補償給付から始めます。
2.療養補償給付
(1)意義と給付の範囲
療養補償給付とは、傷病の補償のために労働者に診察、薬剤、治療材料、処置、手術その他の治療、病院への収容、看護、移送を政府が必要と認める範囲において提供するものです。
労災病院又は労災指定病院での現物給付、すなわち無料の療養が原則ですが、それが困難な場合には療養費、すなわち現金が支給されることになります。
(2)支給期間
療養の必要が生じたときから、傷病が治癒するか、死亡するかして療養を必要としなくなるまで支給されることになります。ここでいう「治癒」とは、症状が安定し、傷病が固定した状態にあるものをいい、必ずしも傷病にかかる前の状態に回復することを意味しません。症状が残っている状態でも、それ以上治療の効果が期待できず、療養の余地がない時は,「治癒」したと判断されます。
(3)請求手続
ア 療養給付の場合
「療養の給付請求書」に記載した「負傷又は発病の年月日」及び「災害の原因及び発生状況(業務災害の場合)」について、事業主の証明を受けたうえで、指定病院等を経由して当該請求書を所轄労働基準監督署長に提出する必要があります。
記載例は厚労省のホームページにありますが、少し面倒で分かりにくかったりします。
そのため、必要書類については近くの労基署の労災課に確認するとよいでしょう。
実際、法律事務所においても、不明な点は労基署に連絡して確認することが多いです。
イ 療養の費用の場合
療養にかかった費用をいったん医療機関に支払い、「療養の費用請求書」に記載した「負傷又は発病の年月日」及び「災害の原因及び発生状況(業務災害の場合)」について事業主の証明を受け、「傷病及び療養の内容」及び「療養に要した費用」について診療担当者の証明を受けたうえで、当該請求書を直接所轄労働基準監督署に提出することになります。
(4)療養給付の一部負担金
政府は、後記に該当する者を除き、療養給付を受ける労働者から200円(健康保険法に定める日雇特例被保険者である労働者については100円)を一部負担金として徴収します。滅多にないですが、療養費用総額が200円未満だった場合は、現に療養に要した費用の総額が負担金となります。
この一部負担金の対象とならない者は誰か?
それは、第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける者や療養の開始後3日以内に死亡した者、その他の休業給付を受けない者、同一の通勤災害にかかる療養給付について既に一部負担金を納付した者、労災保険の特別加入者などが当たります。
3.休業補償給付
(1)意義と給付の範囲
次に、休業補償給付のご紹介を致します。
休業補償給付とは、労働者が傷病の療養のために労働することができず、その結果として賃金を受けられない場合に、第4日目以後について、給付基礎日額(労基法上の平均賃金相当額)の60%を支給するものをいいます。
また、似たものとして,休業補償給付特別支給金というものがあります。これは、休業補償給付に加えて給付基礎日額の20%分が支給されるものをいいます。ただし、この特別支給金は常に休業補償給付とセットで請求できる又はするものではありません。交通事故など加害者側の保険会社から休業損害が支払われている場合には、そもそも休業補償給付は支払われないので、特別支給金のみ労基署へ請求していくことになります。
休業補償給付は、休日や出勤停止期間など賃金請求権が発生しない日についてもなされますが(浜松労基署長事件・最1小判昭和58・10・23民集37巻8号1108頁)、最初の3日間の待期期間の休業は保険給付の対象とならず、使用者が労基法76条の休業補償を行わなければならなくなります。
(2)支給要件
休業給付の支給要件は、①療養のためであること、②労働不能であること、③賃金を受けない日であること、④待期期間を満了していることの4つです。
1つずつご説明致します。
ア ①療養のためであること
休業補償給付は、「療養」のために休業している場合でないと支給されません。したがって、治癒後の処置(いわゆる外科後処置)により休業している場合には支給されません。
イ ②労働不能であること
「労働することができない」とは、労働者が負傷し又は疾病にかかる直前に従事していた種類の労働をすることができない場合のみならず、一般に労働不能であることをいいます。したがって、負傷前の作業はできなくても、被災した事業場で他の作業をすることができる場合は、休業補償給付は支給されません。
また、事業場に通勤することはできるけれども、病院の診療を受けに行くために労働することができない場合には、休業補償給付は支給されます。
ウ ③賃金を受けない日であること
「賃金を受けない日」とは、金額を全く受けない日はもちろん、「平均賃金の60%未満の金額しか受けない日」も含まれます。
では、一部労働不能の場合はどうなるのでしょうか?
通院する場合のように、所定労働時間の一部分について労働不能である場合は、「平均賃金と当該労働時間に対して支払われる賃金との差額(労働不能部分に対応する平均賃金)の60%未満の金額しか受けない日」にこの要件に該当することになります。少し分かりにくいと思いますので以下の具体例をご覧ください。
例えば、平均賃金20万円の労働者が一部労働して5万円を支給された場合、20万円-5万円=15万が平均賃金と当該労働時間に対して支払われる賃金の差額になります。
そして、この5万円は、差額の60%である9万円未満です(ちなみに、計算式は差額15万円×60%=9万円です)。したがって、この例では、③「賃金を受けない日であること」の要件を満たすことになります。
では、平均賃金20万円の労働者が一部(結構頑張って)労働して15万円を支給された場合はどうでしょうか?この場合、平均賃金と当該労働時間に対して支払われる賃金との差額は5万円です。そうすると、当該労働時間に対して支払われる賃金15万円は上記差額5万円×60%=3万円を超えています。したがって、この例では、③賃金を受けない日であること、という要件を満たさないことになります。
エ ④待期期間を満了していること
休業の最初の3日間は待期期間とされ、休業補償給付は支給されません。この待期期間は継続している必要はなく、また、その間金銭を受けていても成立します。
オ 支給要件の小話
休業補償給付は、その支給要件に該当する限り、休日又は出勤停止の懲戒処分を受けたなどの理由で雇用契約上賃金請求権を有しない日についても支給されます。
(3)支給額
ア 全部労働不能の場合
所定労働時間の全部について労働不能であるときは、1日につき「給付基礎日額」の100分の60に相当する額が支給されます。
イ 一部労働不能の場合
所定労働時間の一部部分について労働不能である場合は、1日について「給付基礎日額から当該労働時間に対して支払われる賃金の額を控除して得た額」の100分の60に相当する金額が支給されます。
例えば、平均賃金20万円の労働者が一部労働して当該労働により5万円支給された場合には、前述した支給要件③を満たすので、20万円-5万円の差額15万円の60%である9万円が支給されます。
(4)支給期間
休業の第4日目から、休業日が継続していると断続しているとを問わず、実際の休業日について休業の続く間支給されます。
もっとも、傷病補償年金を受けることとなった場合は打ち切られてしまいます。傷病補償年金は、休業補償給付に切り替えられて支給されるので、この両者が併給されることはないのです。
なお、前述した療養補償給付と休業補償給付は併給されまし、療養補償給付と傷病補償年金も併給されます。
(5)休業補償給付の支給制限
労働者が刑事施設、労役場その他これに準ずる施設に拘禁されている場合や、少年院その他これに準ずる施設に収容されている場合は、休業補償給付は支給されません。
4.まとめ
業務災害や通勤災害にあわれた方がよく利用する労災保険給付がこの2つの給付であることが多いと思いますので概要だけでも理解しておくとよいと思います。
次回は、障害補償給付等についてご紹介していきます。