相続財産清算人とは?
相続財産清算人とは、被相続人の相続財産を相続する者がいない場合又は相続人の存在が明らかでない場合に、相続財産を債権者や特別縁故者などの関係者に分け与えるために、親族や利害関係人らの請求によって、家庭裁判所に選任される者のことをいいます。
相続財産清算人の制度は、相続人が不存在又は明らかでない場合に相続財産を清算する目的で令和3年の民法改正により設けられました。
改正前は、相続財産管理人がこの相続財産の清算目的の場合にも選任されていましたが、現行法では、相続財産の清算目的の場合には、相続財産清算人が選任されることとなりました。
相続財産清算人の権限と職務
1.地位
まず前提の理解として、相続人のあることが明らかでない相続財産は法人化します。無主物の財産を放置しておくことは、債権者など利害関係人にとって望ましくないので、相続財産を法人とみなすのです。
そしてこの法人化した相続財産を代表する機関が相続財産清算人となります。つまり、相続財産清算人は、相続財産法人の代表機関という地位を有することになります。
2.資格と権限
相続財産清算人となるために、特別な資格はありませんが、弁護士や司法書士など、相続財産清算業務に関する法律の知識や経験を有する者が望ましく、一般的に、これらの者から家庭裁判所が選任することになります。
相続債権者(被相続人の債権者)や受遺者への弁済を行ったり、特別縁故者や共有者などもおらず相続財産を引き継ぐ者がいない場合には、最終的に国庫に帰属させるなど、相続財産を管理し清算する権限があります。
3.職務
相続財産清算人の職務は、以下のように、各利害関係人との間で異なります。いずれも清算を目的としているという点で共通しています。
家庭裁判所・・・財産目録の作成や財産状況の報告・管理計算
相続人・・・相続人の捜索
相続債権者や受遺者・・・財産上の報告や請求申出の公告・弁済
特別縁故者・・・分与する財産の引渡し
国庫・・・残余財産の国庫への帰属
清算手続きの大きな流れ
相続財産清算人の選任を申し立てた後(管轄の家裁に申立書を提出した後)の大きな手続きの流れは以下のとおりとなります。
1.相続財産清算人選任の審判
被相続人の債権者や特定遺贈を受けた者、特別縁故者など被相続人との間で利害関係のあった申立人が、所定の申請書類を被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所に提出して申立てを行うことになります。
2.相続財産清算人選任および相続人捜索の公告
相続財産清算人が選任されると、その旨が公告されます。また相続財産清算人選任公告と同時に相続人がいれば相続人であることを申し出るよう公告を行います。公告期間は6か月を下ることはできません。
公告は裁判所の掲示場など一般の方でも見やすい場所に掲示し、かつ官報に掲載する方法により行われます。これは裁判所が主体となって行われます。
3.相続債権者・受遺者への請求申出の公告及び催告
相続財産清算人選任および相続人捜索の公告が行われた後、2回目の公告として行われます。この公告は、相続債権者や受遺者に対して、相続財産清算人が相続財産の清算手続を始めことを知らせ、相続債権者や受遺者らが弁済の請求など権利行使できる機会を与えるために行われます。
この公告期間は、2か月以上の期間を定めて行われますが、上記で述べた相続財産清算人選任および相続人捜索の公告期間内に終了するよう定めなければなりません。なお、この公告は相続財産清算人が主体となって行われます。
4.弁済・相続財産の換価
相続財産清算人は、相続財産に対して優先権を有する債権者を除き、請求申出の公告期間中(上記3の公告期間)、相続債権者・受遺者間の公平を図るため弁済を拒絶することができます。
弁済は、①優先権を有する債権者、②上記3の公告期間中に申出のあった債権者ら、③上記3の公告期間中に申出のあった受遺者ら、④上記3の公告期間中に申出がなかったが上記2の公告期間内に申出のあった債権者及び受遺者らの順序で行われます。
弁済に際して充当できる預貯金がない、または不足している場合には、不動産や動産、有価証券などその他の相続財産を換価して弁済することになります。換価方法として任意売却や形式競売がありますが、実務では多くの場面で任意売却により実施されています。
5.公告期間満了後の特別縁故者に対する相続財産分与の審判
相続人捜索の公告期間満了後、相続人の不存在が確定し、残余財産がある場合には、被相続人と特別の縁故があった者からの申立てにより、家庭裁判所は相続財産の全部又は一部を与えることができます。誰が特別縁故者にあたるのか特別縁故者の範囲については、家庭裁判所の裁量により判断されるため、判断に迷う場合には、弁護士など専門家に確認するとよいでしょう。
特別縁故者からの申立てがなく、かつ相続財産に共有持分がある場合には、他の共有者に相続財産が帰属することになります(民法255条)。
6.残余財産の国庫への帰属
特別縁故者からの申立てもなく(申立てがあっても特別縁故者と認められず)、相続財産について共有者に帰属する共有持分もない場合には、相続財産は、国庫に帰属することとなります。
相続財産が国庫に引き継がれると、相続財産法人は消滅し、相続財産清算人の清算権限は消滅します。
相続財産の清算にかかる費用
相続財産の清算にかかる主な費用として以下のものが挙げられます。
1.申立費用(収入印紙や郵券など)
2.相続財産清算人への報酬
相続財産清算人の選任申立にあたっては、収入印紙(福岡家裁は800円分)や連絡用の郵便切手代、官報公告料(福岡家裁は5075円)、予納金(相続財産から相続財産清算人への報酬に不足する場合などに予納を求められます)などの申立費用が必要となります。
相続財産清算人への報酬額は、管轄の家庭裁判所が、管理・清算行為の具体的な内容(難易など)や経過、期間など種々の事情を考慮して決定します。
なお、相続財産清算人選任の申立てを弁護士に依頼する場合には、弁護士費用として手数料が発生します。福岡の弁護士法人いかり法律事務所では、初回相談時にお見積もりをご案内致しますので、お気軽にお問合せ下さい。
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相続財産清算人の選任について問題となる場面は、相続人が不明な場合だけでなく、相続人すべてが相続放棄をしてしまい、被相続人の相続財産の処分に困る場合などにも現れます。実際のところ、特別縁故者などが申立てをすることは少ないと思いますので、とくに相続債権者にとって債権回収をはかる手段の一つとして本制度の利用を検討したいところです。整備されてまだ日が浅い制度ですので利用者はですが、検討に際しては専門家の弁護士や司法書士に相談してみるのが良いでしょう。
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