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この判決は、新たな就業規則の作成又は変更によって既得権を奪い、不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されないとした上で、不利益変更が合理的であればそれに反対する労働者も拘束されると判断しました。
事案の概要
(1)採用された当時、会社に定年の定めがなかった。
(2)会社は就業規則を変更して、定年制の定めを設けた。
(3)定年に達したため、解雇を通知された。
(4)同意していない就業規則の変更は効力を有しないとして、雇用関係の確認請求等を行った。
第一審:請求一部認容
控訴審:第一審を取り消して従業員の請求を棄却
判旨・判決の要約 上告棄却
(1)新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されない。
しかし、当該就業規則が合理的である限り、個々の労働者の同意がないことを理由として、その適用を拒否することはできない。
(2)本件就業規則は、決して不合理なものということはできず、定年制の定めを設けたことをもって、信義則違反ないし権利濫用と認めることはできない。
解説・ポイント
就業規則の不利益変更について、合理性の判断が否定されやすくなる要素があります。使用者による労働者の不利益に対する配慮を著しく欠いている場合です。
使用者は、経営の維持及び発展のために労働条件を不利益に変更せざるを得ない場面があります。しかし、事前に労働者との十分な協議や不利益を緩和する代償措置を設けるなど、不利益を受ける労働者への配慮に意を尽くす姿勢が必要です。
最近の裁判例では、タクシー運転手の完全歩合制賃金につき、賃率を40%~62%の3段階から40.0%~60.0%の21段階に変更する就業規則改定につき、倒産回避という高度の必要性があり、一定の代償措置が講じられ、2つの組合との交渉も十分であるが、労基法上の減給制裁限度を考慮すると20%以上の限度では合理性がないと判断がなされています(大阪地判H22.2.3労判1014号47頁)。