はじめに
内容証明郵便は、差出人自らの社会生活上重要な事柄を特定の相手方に通知する場合に用いられます。内容証明郵便は、弁護士や司法書士など法律実務家において広く利用されていますが、法律実務家以外の一般の方も利用することができます。
弁護士は、主に民事事件において、特定の相手方に対して、依頼者より受任したことと併せて一定の請求又は法律効果の発生の意思表示などを行う場合に内容証明郵便を利用しています。
内容証明郵便とは
1 意義
内容証明郵便とは、一般書留郵便物の内容文書(受取人へ送達する文書)を証明するもので、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかを、差出人が作成した謄本(内容文書を謄写した書面をいい、差出人および差出郵便局において保管するもの)によって日本郵便株式会社が証明するものをいいます。
一言でいうと、内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰に、どのような内容を送付したかを証明できる郵便方法のことをいいます。
なお、日本郵便株式会社が証明するものは内容文書の存在であり、文書の内容が真実であるかを証明するものではありません。また、内容証明のみでは、相手が受け取ったことは証明できないため、相手が受け取ったことを証明するためには、別途「配達証明」を付加する必要があります。
2 種類
内容証明郵便には、窓口で行うほか、電子内容証明(e内容証明)郵便というオンラインにより24時間発送できる内容証明郵便があります。
文書データを送信すれば、自動的に処理されるため、郵便窓口へ出向く必要はありません。法律事務所では、一般的に、この電子内容証明郵便を利用して連絡等をとっています。
3 利用方法
⑴ 窓口での内容証明郵便
内容証明郵便を利用する場合には、差出郵便局の郵便窓口に以下の①~④のものを準備・提出する必要があります。差出郵便局は、集配郵便局および支社が指定した郵便局に限られます。すべての郵便局において差し出すことができるものではないので注意が必要です。
① 内容文書(受取人へ送付するもの)
② ①の謄本2通(差出人および郵便局が各1通ずつ保存するもの)
③ 差出人および受取人の住所氏名を記載した封筒
④ 内容証明の加算料金を含む郵便料金
①の内容文書および②の謄本ともに市販の内容証明用紙以外の用紙を使用しても作成することができますが、謄本には字数・行数の制限があるので注意が必要です。
⑵ 電子内容証明(e内容証明)郵便
ア 差出方法を選択する
電子内容証明(e内容証明)郵便は、「かんたん差出し」「差出し」「差込差出し」と用途に合わせた差出方法が選択できます。「かんたん差出し」は差出人が1人で、受取人1人の場合に利用されます。一般的に、法律事務所ではこの「かんたん差出し」により差出を行います。
なお、「差出し」及び「差込差出し」は複数のe内容証明文書をまとめて差し出す場合に用いられています。
イ 差出しの手順
電子内容証明郵便の差出しは以下の手順で行われます。
① Webゆうびんの専用Webサイトにログインする(利用登録料無料)。
② Word(所定の様式のもの)で作成した内容証明文書をアップロードし、差出人及び宛先を入力する。
③ クレジットカード又は料金後納で支払いを行う。
4 費用
⑴ 窓口での内容証明郵便
窓口での内容証明郵便の料金は、①基本料金・運賃、②一般書留の加算料金からなり、たとえば、内容証明文書1枚及び謄本の送付方法が通常送付の場合、①84円+②435円=519円となります。
⑵ 電子内容証明郵便
電子内容証明郵便の料金は、①郵便料金、②電子郵便料金、③内容証明料金、④謄本送付料金、⑤一般書留料金からなります。
たとえば、電子内容証明文書1枚及び謄本の送付方法が通常送付の場合、①84円+②15円+③382円+④304円+⑤435=1,220円の料金が必要となります。
電子内容証明郵便と併せて配達証明や速達を利用する場合は、それぞれ320円(配達証明)、260円(速達)の料金が必要となります。
一般的に、法律事務所では受取人への配達日を証明する資料として、配達証明書を併用しています。
⑶ 電子内容証明郵便の方がメリットが大きい
内容証明郵便の料金は、内容証明とする文書が1~2枚程度であれば窓口での内容証明の方が安価で利用することが出来ます。
もっとも、内容証明文書の文字数や通数が多い場合には、電子内容証明の方が郵便局の窓口よりも安価となります。窓口での内容証明は、1枚520文字までと上限がありますが、電子内容証明は1枚1,584文字まで記載することができるからです。
たとえば、内容証明文書の文字数が約1500文字の場合は、窓口で内容証明文書は3枚となり1,479円の料金が発生しますが、電子内容証明郵便を利用すると1,220円の料金となり、電子内容証明郵便の方が259円安くなります。
電子内容証明郵便を利用すれば封筒や印刷も不要となるため、窓口での利用よりもコストが削減できます。また、メリットは費用の面だけでなく、郵便局の窓口に行く手間がなくなることや内容証明文書を外へ持ち出す必要がないためセキュリティ面も安心です。
⑷ 小括
このように、費用や時間、セキュリティなどの面で電子内容証明郵便の方が優れているため、法律文書のやり取りを行う法律事務所では、この電子内容証明郵便を利用して相手当事者とやり取りをするのが一般的となっています。
内容証明郵便の効力
内容証明郵便には一例として以下の効力が認められます。
1 確定日付が付与される
確定日付とは、内容証明文書が郵便局により受付された日付のことをいいます。内容証明郵便が受付されると、その日の時点で内容証明文書が存在していたことを証明するものとして確定日付の受付印が押印されます。
受付の時点で内容証明文書が存在していたことが確定日付により証明される、という効力が認められることになります。また、確定日付により以下の効力も認められます。
債権の二重譲渡が行われた場合、内容証明郵便等の確定日付のある証書によって通知又は承諾を受けた当事者は、確定日付のない通知又は承諾によって債権を譲り受けた当事者に対して当該債権の譲受を対抗することができます。
また、債権の二重譲渡がともに内容証明郵便等の確定日付のある証書によって行われた場合、先に通知の到達した方が他方当事者に対して債権の譲受を対抗することができるとされています(到達時説・最判昭和58.10.4判時1095号95頁)。
この場合、確定日付のある証書の到達が遅れた債権譲受人が、譲渡人と通謀し到達日を遡及させようとしても、確定日付よりも前の日にまで遡及させることはできません。
確定日付が付与されることにより、債権の二重譲渡の場面で到達日を遡及させる不正を可及的に防止することができるという効果が期待できます。
2 法律効果の発生要件である意思表示を行う
債務の履行の請求や債権譲渡、時効の中断・援用、契約の解除・取消など内容証明郵便を利用して法律効果の発生に必要な意思表示を行うことができます。内容証明郵便を利用する最も重要な効果は、この法律効果の発生要件である意思表示を行うことにあります。
一定の法律効果の発生要件である意思表示を内容証明郵便によって行う場合には、意思表示を行っていること及びその内容が一義的で明確となっていることに留意しなければなりません。
3 受取人に心理的な影響を与える
内容証明郵便の副次的効果ですが、内容証明郵便は偽造防止加工が施された用紙で出来ていることから、通常の手紙ではないことが明らかです。そのため、受取人も必然的に文書の内容を注視する傾向が強くなります。
また、法律事務所から送付された文書が内容証明郵便である場合には、弁護士名義であることや、回答期限までに連絡が無ければ法的措置を執ることもあるとの文句を入れることが一般的です。そのため、受取人からすると弁護士を相手に交渉や訴訟を行うのは時間や費用がかかりデメリットが大きいので、差出人の請求に対応せざるを得ないという心理的な強制力が働くことになります。
このように副次的な効果ではありますが内容証明郵便には、受取人に対して心理的な強制力を与えるという効果を期待することができます。
弁護士に依頼すると
1 代理人として相手方と交渉を行う
弁護士は受任後、相手方と交渉を行うことになりますが、交渉では電話等口頭でのやり取りよりも、証拠として残す必要があることから文書でのやり取りが一般的となります。弁護士は、依頼者が相手方に何を伝えたいかを文章化し、どうすれば一番こちらの望む回答を得ることができるのかを考えて書面を作成します。
その際、法的根拠を示すことは重要な部分となるため、事実関係のヒアリングや調査、請求内容を基礎付ける証拠の収集を入念に行うことになります。
なお、証拠の収集や事実関係の調査・確認のために時間や手間がかかる場合には、一先ず受任通知書だけを相手に送付することもあります。
そしてこの際利用することが多いのが内容証明郵便となります。内容証明郵便は受任後はじめて相手に送付する文書として利用されることが多く、その後は普通郵便やFAXなどでやり取りをすることになります。
2 内容証明郵便の作成・発送のみの依頼も可能
内容証明郵便の作成・発送のみ弁護士に依頼することもできます。
内容証明郵便のみの作成・発送であっても、先に述べた内容証明郵便の効力に加え、弁護士が作成する文書は法律効果の発生に必要な法律要件を漏れなく記載した正確な法律文書であるため、普通郵便による通常の手紙や請求書類とは異なり高い証拠能力が認められます。
実際、弁護士が内容証明文書を送付しただけで事件が解決することも少なくありません。交渉や訴訟追行まで依頼するよりもコスパが良く、依頼者のニーズも大きいため、多くの法律事務所では、内容証明郵便のみの依頼も受けているようです。
3 弁護士費用
内容証明郵便の作成・発送のサービスのみを弁護士に依頼した場合、事案によりも異なりますが、一般的には5万5000円~11万円程度(税込)が弁護士費用の相場となっています。
決して安価とはいえないので、紛争の予防や紛争の初期などに早期に事件の解決を図りたい場合等に利用を検討するのがよいでしょう。
まとめ
普通郵便で手紙や請求書を送付するより、弁護士が作成した法律文書を内容証明郵便で発送することにより、一定の法律効果の発生や受取人への心理的な強制力など大きな効果を期待することができます。
他方で法律実務家以外の方が、自分で証拠能力の高い法律文書の作成やその後の交渉を行うことは容易ではありません。
内容証明郵便を作成・発送を検討している、又は内容証明郵便の作成・発送のみで事件が解決するか知りたいなど、内容証明郵便のサービスや効果に関するお悩みは様々だと思います。
弁護士法人いかり法律事務所では内容証明郵便のみのご依頼も積極的に承っています。内容証明郵便に関するサービスについて気になることがありましたら、まずは無料法律相談をご利用の上、お気軽に当法律事務所までご相談下さい。