4.遺族(補償)一時金と遺族特別一時金

⑴ 意義・支給要件

 遺族(補償)一時金及び遺族特別一時金とは、被災者の遺族の中に、遺族(補償)年金の受給資格者がいない場合に支給される一時金のことをいいます。両者の違いは、前者の算定基礎が給付基礎日額であるのに対し、後者の算定基礎が算定基礎日額である点が異なります。
 これらの一時金は、遺族(補償)年金の受給権者が最後順位者まですべて失権した場合で、それまでに支払われた遺族(補償)年金と遺族(補償)年金の前払一時金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないことが支給要件とされています。

⑵ 受給権者

 受給権者の優先順位は、次のとおりとなります。
 配偶者が必ず最先順位となり、兄弟姉妹は必ず最後になるという点が、遺族(補償)一時金と遺族特別一時金の特徴となります。

1配偶者
2被災者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
3上記の生計維持要件を満たさない子・父母・孫・祖父母
4兄弟姉妹

⑶ 支給内容

 遺族(補償)一時金は、給付基礎日額の1000日分が支給されます。
 遺族特別一時金は、算定基礎日額の1000日分が支給されます。
 ただし、すでに他の遺族が遺族(補償)年金等や前払一時金を利用して遺族(補償)給付を受給している場合には、支給済み金額は控除されます。

⑷ 受給方法

 遺族(補償)一時金は、所轄の労働基準監督署長に、遺族(補償)一時金支給請求書を提出することが必要となります。様式についてはこちら
 また、必要な添付資料として以下の書類が挙げられます。
 ①死亡診断書や死体検案書など、被災者死亡の事実及び死亡年月日を証明することのできる書類、
 ②戸籍謄本や抄本など被災者と請求者との身分関係が明らかな公的書類、
 ③被災者と事実上婚姻関係と同様の事情にあったことを証明することのできる書類

5.遺族特別支給金

 遺族特別支給金とは、遺族数に関係なく、一律300万円が支給される一時金のことをいいます。遺族特別支給金は、遺族の福祉を図るため、社会復帰促進事業の一環として支給されるものです。
 遺族特別支給金の支給申請は、遺族(補償)給付の支給申請様式と同一になっているので、通常、遺族(補償)給付の請求と同時に行うことになります。

6.複数事業労働者遺族年金と複数事業労働者遺族一時金

⑴ 意義

 複数事業労働者とは、被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになったり死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者のことをいいます。
 複数事業労働者遺族年金および複数事業労働者遺族一時金とは、上に述べた複数事業労働者の遺族に支給される年金と一時金のことをいいます。
 複数事業労働者については、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるかが判断されます。

⑵ 支給内容

 複数事業労働者の方については、各就業先の事業場で支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定されます。
 社会復帰促進等事業として行われる特別支給金についても、複数事業労働者については、給付基礎日額等をもとに支払われるものについては同様の取り扱いがなされます。

⑶ 受給方法

 複数事業労働者遺族年金と複数事業労働者遺族一時金は、遺族(補償)年金や遺族(補償)一時金と同じ書式を利用して、所轄労働基準監督署長に請求することになります。

7.遺族(補償)年金前払一時金

⑴ 支給内容

 遺族(補償)年金前払一時金とは、遺族(補償)年金を1回だけ、年金の前払として、給付基礎日額200日分から1000日分の範囲で支給される一時金のことをいいます。若年停止を受けている受給権者にも、この前払い一時金をうけることができます。
 遺族(補償)前払一時金は、急に収入減を絶たれた遺族のために、当面の生活費などを支給し、被災者の収入によって生計を維持していた遺族らの生活をサポートする趣旨で設けられたものです。
 前払い金ですので、この前払い一時金を受給すると、法定利率を差し引いた各月分の合計額になるまで、遺族(補償)年金の支給は停止されることになります。

⑵ 受給方法

 遺族(補償)年金前払一時金の支給申請は、遺族(補償)給付の支給申請様式と同一になっているので、通常、遺族(補償)給付の請求と同時に行うことになります(請求先は所轄労働基準監督署長です)。
 ただし、年金の支給決定通知のあった日の翌日から、1年以内であれば、遺族(補償)年金を受けた後も請求することができます。

8.時効

 遺族(補償)年金前払一時金を除き、これら遺族補償給付の時効は、被災者死亡日の翌日から起算して5年となります。

9.葬祭料・葬祭給付

 葬祭料とは、業務災害により亡くなった場合に、葬儀を執り行う者に支給される給付金のことをいいます。
 他方、葬祭給付とは、通勤災害により亡くなった場合に、葬儀を執り行う者に支給される給付金のことをいいます。
 支給内容や受給方法についてはこちら

10.まとめ

 今回は遺族(補償)給付について紹介いたしました。また、2020年9月1日に労災保険法の改正により規定された複数事業労働者遺族給付についても、簡単にではありますが解説いたしました。
 今回紹介した給付金は、業務災害や通勤災害により被災し、受給資格のある遺族に支給される保険金となります。

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