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この判例は、組合から脱退する権利をおよそ行使しないことを組合員に義務付けて、脱退の効力そのものを生じさせないとする合意は、脱退の自由という重要な権利を奪い、組合の統制への永続的な服従を強いるものであるから、公序良俗に反し無効であると判断しました。
事案の概要
(1) 平成元年4月1日、Xは、Y₂に雇用され、試用期間満了後の同年7月1日、Y₂との間でユニオン・ショップ協定及びチェック・オフ協定を含む労働協約を締結している労働組合Y₁に加入した。同協約は、Y₁をY₂の唯一交渉団体とも規定していた。
(2) 平成7年9月末頃、Y₁に不満を抱いたXは、他のA組合に加入し、Y₁に脱退届を送付したところ、Y₁はその受領を留保し、脱退を思い留まるよう説得に努めた。
他方、X及びA組合はY₂に対しA組合への加入を通知するとともに団体交渉を申し入れたが、Y₂はY₁が脱退届の受理を留保していることを理由に交渉に応じなかった。そこで、X及びA組合は、Y₂の上記対応が不当労働行為に当たるとして、K地労委に救済を申し立てた。
(3) 平成8年1月ころ、Y₂とX及びA組合とは、K地労委の了解の下に和解に向けた協議を開始した。
特段の事情がある場合には、A組合はXがその組合員であることを主張することができる旨の合意(以下「本件付随合意」という。)が成立したことを受け、A組合への和解金の支払い、不当労働行為の救済申立ての取り下げ等の和解が成立し、XはY₁から脱退する旨の意思表示を撤回した。
(4) 平成10年9月、A組合から脱退した者らによってB組合が結成され、XもA組合を脱退し、B組合に加入した。
(5) 平成13年5月16日、Y₁に対し脱退の意思表示をするとともに、Y₂に対してチェック・オフの中止を申し入れた。
(6) Xは、Y₁に対しては、XがY₁の組合員としての地位を有しないことの確認のほか、チェック・オフにより組合費として納付された額に相当する不当利得の返還及び個人積立金の返還を求め、Y₂に対しては、Y₂がY₁の組合費を控除しない金額の賃金をXに支払う義務を負うことの確認を求めて提訴した。
第一審:請求認容、控訴審:控訴認容
判旨・判旨の要約 破棄自判
(1) 一般に、労働組合の組合員は、脱退の自由、すなわち、その意思により組合員としての自由を有するものと解される。
(2) Xが本件付随合意に違反してY₁から脱退する権利を行使しても、Y₂との間では債務不履行責任等の問題を生ずるにとどまる。
(3) 本件付随合意のうち、Y₁から脱退する権利をおよそ行使しないことをXに義務付けて、脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は、脱退の自由という重要な権利を奪い、組合の統制への永続的な服従を強いるものであるから、公序良俗に反し無効である。…以上のとおりであるから…Xがチェック・オフの中止を求めることは許されないとすることはできない。
解説・ポイント
労働組合は労働者によって自主的に組織される任意団体です。
一般的に、その組織の内部運営については、組合自身でルールを決め、それに従わない組合員に対して、戒告や譴責、罰金、権利停止、除名などの統制処分を行うことができます。
他方、労働組合は憲法や労働組合法によって規律され、通常の任意団体にはない特別の権能を与えられた団体でもあります。
ここでいう特別の権能とは、例えば、民事免責や刑事免責、規範的効力を持つ労働協約の締結、不当労働行為の行政救済などが当たります。
労働組合には、組合の内部運営を民主的に行うことが求められるとともに、その内部自治において組合員個人の市民的自由を尊重することが要請されます。
本事案のように、労働組合からの脱退の自由を実質的に制限する組合規約や労使間の合意は公序良俗に反し無効(民法90条)と判断されることになります。