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この判決は、事業所外であっても、労働者が使用者の支配下にあって、業務に従事していると評価できる場合(業務遂行性が認められる場合)には、原則として業務起因性が推定されるところ、出張中の宿泊施設内で酔って階段から転落して負傷後死亡した場合にも業務起因性が認められると判断しました。
事案の概要
(1)労働者は訴外大分放送に雇用され、出張先の宿泊施設で同行の者らと飲酒をした。飲酒後、当該労働者は階段の踊り場で倒れている状態で発見されたが、その後自力で起き上がり客室に戻って就寝した。
翌朝、当該労働者が起床しようとしないことからその異常が発見され、救急車で病院に運ばれた。当該労働者は急性硬膜下血腫で死亡した。
(2)当該労働者の妻は、夫の死亡が業務上の事由によるものであるとして、大分労働基準監督署長に対して、労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付等の支給を請求したが不支給処分とされた。
当該労働者の妻は、処分を不服とする審査請求及び再審査請求を棄却されたので、大分労働基準監督署長を相手として不支給処分の取消しを求めて訴えを提起した。
第一審は業務遂行性を認めたが、業務起因性は認められないとして請求棄却
判旨・判決の要約 原判決取消し(確定)
(1)労働者の死亡が業務上の災害によるものと認められるためには、災害が労働者の業務遂行中に業務に起因して発生したことの要件(業務遂行性及び業務起因性)が存在することを必要とする。
業務遂行性の有無は、災害時に労働者が労働関係上において現に事業主の支配下にあるか否かによって定められるべきである。また、業務起因性の有無は、災害との間に相当因果関係があるか否かによって定められるべきである。
(2)労働者が宿泊を伴う出張をしている場合は、出張中の労働者はその用務の成否、遂行方法などについて包括的に事業主に対して責任を負っているものであるから、出張の全過程について事業主の支配下にあるということができる。
したがって、出張者が所定の宿泊施設内で行動している限りでは、原則として事業者の支配下を離れていないこととなり業務遂行性が認められることとなる。出張に伴う宿泊に当然付随する行為は私的な行為ではなく出張自体に当然付随する行為というべきである。
(3)当該労働者らは本件飲酒によって事業者の支配下から離れ、積極的な私的行為ないし恣意的行為に及んでいたものではなく、本件事故時に労働者には業務遂行性があったものと認められる。
また、本件事故については、それが宿泊を伴う業務遂行に随伴ないし関連して発生したものであることが是認されるところ、業務起因性を否定するに足る事実関係は存しない。
解説・ポイント
事業所外であっても、労働者が使用者の支配下にあって業務に従事していると評価できる場合には、原則として業務起因性は推定されます。
例えば、外回りの営業、出張等が当たります。ただし、本来業務やこれに付随する行為から離脱していると認められた場合は、業務遂行性がないので、業務起因性の推定は覆ることになります。
要するに、業務起因性が認められるためには、前提として使用者に支配下にあったとされる業務遂行性が必要となるという点に注意しなけれなばなりません。以下に幾つか事例を紹介致します。
本事例以外にも、トラック運転手が、正規の運転資格のない助手に運転を委ねて荷積み場所に赴く途中で荷台から転落した事故(長野地判昭和39年10月6日労民15巻5号1098頁)や労働者が業務を一時中断して事業所外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後、当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことが業務上の事由による災害に当たるとされた事例(最二小判平成28年7月8日労判1145号6頁)につき業務起因性が認められています。
そのほかにも、運動競技会や体育会も事業運営上の必要があり、かつ、事業主の命令があるとき、新規採用や転勤に伴い赴任先事業場や社宅に赴く途上の事故も赴任の日時・方法等が示されている命令に基づく社会通念上合理的な経路及び方法による赴任であって事業主から旅費の支給があれば業務起因性を認めるのが行政解釈です。