はじめに

⑴ 有期雇用契約の実態

 有期雇用契約とは、一般的に「契約社員」や「嘱託社員」「パート」などと呼ばれる労働者が使用者と結ぶ契約であり、期間の定めがあるため期間満了時に雇用契約は当然に終了することが予定されています。
 
 有期雇用労働者は、企業規模が大きくなるに伴い、その需要が高まりますが(厚労省HP参照)、他方で、使用者と有期雇用労働者との間で契約の更新などをめぐってトラブルの発生のリスクも高まることになります。

⑵ 雇止めを巡るトラブル

 具体的には、契約更新の繰り返しにより雇用契約を継続したにもかかわらず、突然契約更新をせずに期間満了をもって退職させる等のいわゆる「雇止め」をめぐるトラブルが多く発生しています

 使用者側が有期雇用契約の更新をやめて、契約期間満了時に雇用契約を終了させるためには、「雇止め制限の法理」などの規制に抵触しないことが必要ですが、使用者側において雇止めの制限ついて十分に理解されていないのが実情です。

 有期雇用契約には「雇止め制限の法理」や「無期転換ルール」などの規制があること、その規制の範囲、内容などを正しく理解して運用していくことができれば、労使間でのトラブルの発生を予防・回避することが可能となります。

 使用者は、有期雇用契約を結ぶ前・更新前に有期雇用契約に関する規制や法的リスクを理解しその対応策を準備しておくことが必要です。

「雇止め制限の法理」について

⑴ 「雇止め制限の法理」とは

 「雇止め制限の法理」とは、労働契約法19条1号又は2号のいずれかに該当する場合かつ更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合に、雇用契約の更新拒否が違法な雇止めとして、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で新たに労働契約が成立することをいいます。

⑵ 「雇止め制限の法理」の要件

ア 労働契約法19条1号又は2号に該当すること

① 実質無期契約型(労働契約法19条1号)
 労働契約法19条1号には「当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること」と規定されています。

 たとえば、有期雇用契約が何度も反復更新され、その更新手続きが形骸化している等、当該有期雇用契約が社会通念上無期雇用契約と実質的に同一視できるような場合をいいます。 

② 期待保護型(労働契約法19条2号)
 労働契約法19条2号には「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること」と規定されています。

 たとえば、使用者から継続雇用を期待させる言動があったり、これまで同種の地位にある労働者で更新拒絶された者がいない等、労働者において有期雇用契約がこれまでと同じように更新されると期待することが合理的といえるような場合をいいます。

イ 更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないこと

 実質無期契約型又は期待保護型のいずれかの類型に該当する有期雇用契約について、労働者が契約期間満了前に更新の申込みをした場合や、契約期間満了後遅滞なく有期雇用契約の締結の申込みをした場合には、客観的合理性および社会通念上相当性がなければ雇止めが適法と認められないことになります。

 客観的合理性がある場合とは、労働者の労働能力が欠如していたり、労働者が規律違反を行っていたり、経営難で余剰人員が発生しているなど経営上の必要性がある場合をいいます。

 また、社会通念上相当性がある場合とは、上記客観的合理性の内容・程度、不当な動機・目的の有無、他の労働者との対応の比較、必要な手続の履践などを総合的に考慮し、労働者の雇止めにより被る不利益に相当する事情がある場合をいいます。

⑶ 「雇止め制限の法理」の効果

 「雇止め制限の法理」により更新拒絶が無効とされると、従前と同一の労働条件で労働者からの有期雇用契約の更新の申入れを承諾したものとみなされることになります。 

 労働契約法上、実質無期契約型(労働契約法19条1号)または期待保護型(労働契約法19条2号)に該当したとしても、雇止めを行うことに客観的合理性および社会通念上相当性があれば、当該雇止めは適法と認められることになりますが、実質無期契約型または期待保護型に該当している時点で、客観的合理性や社会通念上相当性が認められる場面は事実上少なくなることに注意が必要です。

 つまり、使用者が違法な雇止めを行わないようにするためには、雇止めの対象となる有期雇用契約が実質無期契約型(労働契約法19条1号)または期待保護型(労働契約法19条2号)に該当しないようにしなけれなりません。

「違法な雇止め」を行わないために

⑴ 雇止めは容易には認められない

 雇止めも解雇と同じように、労働者の生活に重大な影響を与えることになることから、労働者に有利な事情を総合的に考慮して労働契約法19条各号に類型化し、裁判上、雇止めの適法性を厳格に判断する傾向にあります。

⑵ 契約更新限度条項と不更新条項の定めがあっても万全ではない

 適法な雇止めを行うために、使用者が労働者と有期雇用契約締結の際に、予め契約更新限度を定めたり、最後の更新の際に、次回は労働契約を更新しない旨の不更新条項を定めることが考えられます。

 しかし、このような定めがある場合にも「雇止め制限の法理」の適用が否定されるわけではありません。労働者が従事する業務の内容や使用者の言動、更新手続などの事情から、労働者において更新されると期待することが合理的と言える場合には、この期待は保護される場合があります。

 更新限度条項や不更新条項の定めがあっても「雇止め制限の法理」の適用が肯定される場合があることに注意しなければなりません。

⑶ 「終わり」を見据えて「はじめから」対策をとる

 使用者は労働者と有期雇用契約を締結する場合には、契約期間、更新の有無、有期労働契約を更新する場合の基準などを明示しなければなりません(労働基準法15条1項・同施行規則5条1項)。

 とりわけ従事する業務内容や契約上の地位、更新の有無については、後々紛争とならないよう労働者に分かり易く説明するなどして労働条件を明らかにしておく必要があります。

 契約更新時においても、更新手続きの都度、有期雇用契約書や労働条件通知書等を取り交わし、更新後に従事する契約内容や契約上の地位、次回の更新の有無について説明し客観的に明らかにしておくことが必要です。
 また、更新意向を伺い面談を実施する等して労働者の意思を確認しながら更新手続きを進めることも必要です。

無期雇用契約への転換申込み

⑴ 無期転換ルールとは

 無期転換ルールとは、平成25年4月1日以降に開始した有期雇用契約の通算契約期間が5年を超える場合には、その契約期間の初日から末日までの間、無期雇用契約への転換の申込みをすることができることをいいます。

⑵ 無期転換ルールの効果

 労働者が所定の期間内に無期転換申込権を行使すると、使用者は申込みを承諾したものとみなされ、有期雇用契約の満了日の翌日から無期雇用契約が成立することとなります。
 ただし、期間を除き労働条件は有期雇用契約の労働条件と同じ内容となります。

⑶ 反復継続の更新による契約期間に注意する

 有期雇用契約を反復継続更新して通算契約期間が5年を超える場合、有期雇用労働者に無期転換申込権(使用者に無期雇用契約の締結を申込む権利)を行使される可能性がありますので注意が必要です。
 使用者は労働者による無期転換申込権の行使を断ることはできません

まとめ

⑴ 雇止めは容易には認められない

 本稿でも述べたように、一度有期雇用契約を締結すると、必ずしも期間満了により当然に契約が終了するわけではなく、契約更新を拒絶すること(雇止め)は容易には認められないことに注意が必要です。

 有期雇用契約を期間満了により終了させたいのであれば、使用者は労働条件の説明の事実を証拠化しておくだけでなく、労働条件に関する労働者の理解を都度確認しながら雇用契約の締結及び更新の手続きを進めることが必要です。
 
 また、契約更新を繰り返すことにより、雇止め制限の法理に抵触するだけでなく、労働者に無期雇用契約の締結を申込むことのできる無期転換申込権が発生する場合もあることに注意が必要です。

⑵ 雇止めのご相談はいかり法律事務所に

 実質無期契約型や期待保護型に該当するか否かなど雇止めの適法性に関する事実認定には高度の法律判断が必要となります。
 具体的な雇用契約の内容や締結及び更新の手続きだけでなく、雇止めの適法性について少しでも気になることがあれば、労務問題に詳しい専門家に相談してみることが重要です。

 弁護士法人いかり法律事務所には雇止めをはじめ労務問題に詳しい弁護士が多数在籍していますので、労務問題について気になることがありましたら、まずは無料法律相談をご予約のうえ、お気軽に当法律事務所へご相談下さい。