今回は、労災事故により被災者が亡くなった場合に支給申請する、遺族補償給付について、なるべくわかり易くご紹介いたします。
このページの目次
1.遺族(補償)給付の意義と種類
⑴ 意義
遺族(補償)給付とは、労働者が業務上(通勤により)死亡した場合に、被災者と一定の身分関係のある遺族に支給される給付金のことをいいます。
⑵ 種類
遺族(補償)給付の種類には、遺族(補償)年金、複数事業労働者遺族年金、遺族(補償)一時金、複数事業労働者遺族一時金、遺族特別年金、遺族特別一時金、遺族特別支給金があります。
また、葬祭料(葬祭給付)についても簡単にではありますが、ご紹介いたします。
なお、遺族補償給付と遺族給付の違いは、業務災害によるものか、通勤災害によるものかで呼び方が異なります(前者が遺族補償給付、後者が遺族給付といいます)。これは、療養補償給付と療養給付、休業補償給付と休業給付、障害補償給付と障害給付についても同様です。
因みに、業務災害に「補償」がつくのは、会社の責任で「補償」する必要があるからです。通勤災害は、通常、会社は関与しないので会社に直接の責任はない、という点から「補償」がつきません。
複数事業労働者についも、労働者のいずれの就業先での事故か特定できないため「補償」がついていません。
2.遺族(補償)年金
⑴ 意義
遺族(補償)年金は、「年金」と呼ばれることからも分かるとおり、一定の支払期月(偶数月)ごとに支払われることになります。
遺族(補償)一時金は、遺族(補償)年金を受け取る遺族(受給権者といいます)がいない場合に、その他の遺族に対して支給される給付金となります。そして、一時金とありますから、遺族(補償)一時金は1回限りの支給となります。
⑵ 支給要件
遺族(補償)年金が支給されるためには、次の3つの要件をすべて満たすことが必要です。
① 被災者死亡当時、被災者の収入によって生計を維持していたこと
② 被災者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であること
③ 一定の年齢に達していること又は一定の障害状態にあること
ア ①について
「被災者死亡当時、被災者の収入によって生計を維持していた」といえるために、被災者の収入によって生計を一部でも維持されていることが必要となります。
たとえば、夫婦共働きの場合なども生計を維持していたと認められます。
イ ②について
遺族(補償)年金を受給できる資格を持つ者を「受給資格者」といいます。被災者の遺族である「配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹」は、「受給資格者」にあたります。
この受給資格者のうち、遺族(補償)年金が支給される最先順位者を「受給権者」といいます。
つまり、上記遺族のうち、受給資格者かつ受給権者であることが必要となります。
ウ ③について
妻以外には一定の年齢に達していること又は一定の障害状態であることが要件とされています。「一定の年齢」とは、18歳までとか55歳以上60歳未満などの縛りとなる年齢のことをいいます。
また、「一定の障害」とは、障害等級5級以上の身体障害のことをいいます。
そして、遺族(補償)年金の受給権者となる順位は、次のとおりとなります。
1 | 妻又は60歳以上か一定の障害の夫 |
2 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害のある子 |
3 | 60歳以上か一定の障害の父母 |
4 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定の障害のある孫 |
5 | 60歳以上か一定の障害の祖父母 |
6 | 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上又は一定の障害のある兄弟姉妹 |
7 | 55歳以上60歳未満の夫 |
8 | 55歳以上60歳未満の父母 |
9 | 55歳以上60歳未満の祖父母 |
10 | 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹 |
妻が最優先順位となり、生計維持要件以外の年齢要件や障害状態の要件が必要でないことが特徴です。
夫については、受給要件として、年齢要件が定められていることが憲法14条1項の平等原則に反しないかが問題となり、最高裁まで争われましたが、年齢要件が定められていることが合理性を欠くとはいえず、憲法14条1項に違反しないと判断されました(最判第三小法廷H29.3.21)。
エ 若年停止
若年停止とは、受給権者が、夫、父母、祖父母又は兄弟姉妹の場合に、60歳に達するまでは年金の支給が停止されることをいいます。このような年齢制限の趣旨は、60歳までは何とか自ら就労して生活してみて下さい、という自活を促す点にあります。
そのため、受給権者が60歳未満でも、等級5級以上の一定の障害がある場合には、若年停止はされません。
オ 転給
遺族(補償)給付には、独特の制度として、転給という制度があります。受給権者が死亡や婚姻により受給権者でなくなった場合に、次順位の受給資格者が受給権者と繰り上がることをいいます。
労災保険法は、徹底して被災者の遺族を救済しようという趣旨から、この転給という制度を設けています。
⑶ 支給内容
遺族の数などに応じて、遺族(補償)年金が支給されます。
受給権者が2人以上いる場合は、その額を等分した額がそれぞれ支給されることになります。具体的には、以下のとおりとなります。
1人 | 給付基礎日額(算定事由発生日(事故発生日又は傷病等の診断確定日)の直前3カ月間の賃金の総額を日割り計算したものをいいます)153日分 ただし、55歳以上又は一定の障害の状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分 |
2人 | 給付基礎日額201日分 |
3人 | 給付基礎日額223日分 |
4人以上 | 給付基礎日額245日分 |
⑷ 受給方法
遺族(補償)年金は、所轄(事業所管轄のことをいいます)の労働基準監督署長に、遺族(補償)年金支給請求書を提出することが必要となります。
様式についてはこちら。
また、必要な添付資料として以下の書類が挙げられます。
①死亡診断書や死体検案書など、被災者死亡の事実及び死亡年月日を証明することのできる書類、
②戸籍謄本や抄本など被災者と請求者との身分関係が明らかな公的書類、
③所得証明書など請求者が被災者の収入によって生計を維持していたことを証明することのできる書類
その他、請求者が5級以上の障害の状態のある者であるならば、その事実を証明できる書類が必要となり、被災の事実により、遺族が遺族基礎年金や遺族厚生年金、寡婦年金などを受領している場合には、併給調整のため年金証書など支給額を証明する書類が必要となります。
3.遺族特別年金
⑴ 支給内容
遺族特別年金は、業務上の事由により死亡した場合に遺族(補償)年金の受給資格者がいる場合に、その受給資格者に支給される保険金のことをいいます。
なお、通勤上の事由により支給される保険金のことを遺族特別年金といいます。
遺族特別年金は、遺族数又は状況に応じて算定基礎日額の153日分から245日分が支給されます。
⑵ 遺族(補償)年金と遺族特別年金の違い
遺族(補償)年金と遺族特別年金は、前者が給付基礎日額を基礎として給付額を算定するのに対し、後者は算定基礎日額を基礎として給付額を算定する点に違いがあります。
給付基礎日額とは、死傷の原因となる事故発生日又は医師による診断確定日である算定事由発生日前3ヶ月間の賃金総額を日割り計算したものをいいます。
算定基礎日額とは、算定事由発生日前1年間にうけた特別給与(賞与やボーナスのこと)を365日で割って得られるものをいいます。
つまり、遺族(補償)年金と遺族特別年金の違いは、給付額の算定基礎が平均賃金によるのか、又は賞与によるのかという点にあります。
⑶ 受給方法
遺族特別年金の支給申請は、遺族(補償)年金の支給請求書と同一様式であるため、通常、遺族(補償)年金の支給請求と同時に行うことになります。
4.遺族(補償)一時金と遺族特別一時金
⑴ 意義・支給要件
遺族(補償)一時金及び遺族特別一時金とは、被災者の遺族の中に、遺族(補償)年金の受給資格者がいない場合に支給される一時金のことをいいます。両者の違いは、前者の算定基礎が給付基礎日額であるのに対し、後者の算定基礎が算定基礎日額である点が異なります。
これらの一時金は、遺族(補償)年金の受給権者が最後順位者まですべて失権した場合で、それまでに支払われた遺族(補償)年金と遺族(補償)年金の前払一時金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないことが支給要件とされています。
⑵ 受給権者
受給権者の優先順位は、次のとおりとなります。
配偶者が必ず最先順位となり、兄弟姉妹は必ず最後になるという点が、遺族(補償)一時金と遺族特別一時金の特徴となります。
1 | 配偶者 |
2 | 被災者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母 |
3 | 上記の生計維持要件を満たさない子・父母・孫・祖父母 |
4 | 兄弟姉妹 |
⑶ 支給内容
遺族(補償)一時金は、給付基礎日額の1000日分が支給されます。
遺族特別一時金は、算定基礎日額の1000日分が支給されます。
ただし、すでに他の遺族が遺族(補償)年金等や前払一時金を利用して遺族(補償)給付を受給している場合には、支給済み金額は控除されます。
⑷ 受給方法
遺族(補償)一時金は、所轄の労働基準監督署長に、遺族(補償)一時金支給請求書を提出することが必要となります。様式についてはこちら。
また、必要な添付資料として以下の書類が挙げられます。
①死亡診断書や死体検案書など、被災者死亡の事実及び死亡年月日を証明することのできる書類、
②戸籍謄本や抄本など被災者と請求者との身分関係が明らかな公的書類、
③被災者と事実上婚姻関係と同様の事情にあったことを証明することのできる書類
5.遺族特別支給金
遺族特別支給金とは、遺族数に関係なく、一律300万円が支給される一時金のことをいいます。遺族特別支給金は、遺族の福祉を図るため、社会復帰促進事業の一環として支給されるものです。
遺族特別支給金の支給申請は、遺族(補償)給付の支給申請様式と同一になっているので、通常、遺族(補償)給付の請求と同時に行うことになります。
6.複数事業労働者遺族年金と複数事業労働者遺族一時金
⑴ 意義
複数事業労働者とは、被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになったり死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者のことをいいます。
複数事業労働者遺族年金および複数事業労働者遺族一時金とは、上に述べた複数事業労働者の遺族に支給される年金と一時金のことをいいます。
複数事業労働者については、1つの事業場のみの業務上の負荷(労働時間やストレス等)を評価して業務災害に当たらない場合に、複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できるかが判断されます。
⑵ 支給内容
複数事業労働者の方については、各就業先の事業場で支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定されます。
社会復帰促進等事業として行われる特別支給金についても、複数事業労働者については、給付基礎日額等をもとに支払われるものについては同様の取り扱いがなされます。
⑶ 受給方法
複数事業労働者遺族年金と複数事業労働者遺族一時金は、遺族(補償)年金や遺族(補償)一時金と同じ書式を利用して、所轄労働基準監督署長に請求することになります。
7.遺族(補償)年金前払一時金
⑴ 支給内容
遺族(補償)年金前払一時金とは、遺族(補償)年金を1回だけ、年金の前払として、給付基礎日額200日分から1000日分の範囲で支給される一時金のことをいいます。若年停止を受けている受給権者にも、この前払い一時金をうけることができます。
遺族(補償)前払一時金は、急に収入減を絶たれた遺族のために、当面の生活費などを支給し、被災者の収入によって生計を維持していた遺族らの生活をサポートする趣旨で設けられたものです。
前払い金ですので、この前払い一時金を受給すると、法定利率を差し引いた各月分の合計額になるまで、遺族(補償)年金の支給は停止されることになります。
⑵ 受給方法
遺族(補償)年金前払一時金の支給申請は、遺族(補償)給付の支給申請様式と同一になっているので、通常、遺族(補償)給付の請求と同時に行うことになります(請求先は所轄労働基準監督署長です)。
ただし、年金の支給決定通知のあった日の翌日から、1年以内であれば、遺族(補償)年金を受けた後も請求することができます。
8.時効
遺族(補償)年金前払一時金を除き、これら遺族補償給付の時効は、被災者死亡日の翌日から起算して5年となります。
9.葬祭料・葬祭給付
葬祭料とは、業務災害により亡くなった場合に、葬儀を執り行う者に支給される給付金のことをいいます。
他方、葬祭給付とは、通勤災害により亡くなった場合に、葬儀を執り行う者に支給される給付金のことをいいます。
支給内容や受給方法についてはこちら。
10.まとめ
今回は遺族(補償)給付について紹介いたしました。また、2020年9月1日に労災保険法の改正により規定された複数事業労働者遺族給付についても、簡単にではありますが解説いたしました。
今回紹介した給付金は、業務災害や通勤災害により被災し、受給資格のある遺族に支給される保険金となります。