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 この裁判例は、就業規則の変更により、降格又は減給を基礎付ける変動賃金制を導入した措置や諸手当を減額した措置は、給与削減の必要性や営業実績次第で早期の昇格可能性は認めつつも、実際に生じた不利益の程度は大きく代償措置や経過措置がないこと労使間の利益調整がされた結果としての合理的な内容と認められないこと変更について高度の必要性が認められないことから、合理的を欠くと判断しました。

事案の概要

(1) Xらは、証券会社であるY社に営業社員として25年ないし15年勤めてきた者である。Y社は、業績不振により、課長以上の管理職の給与を一律カットした。その後も、Xらの降格、号俸の引下げ及び手当の減額を繰り返したため、Xらの給与は従前から大幅に落ち込んだ。
(2) Y社の就業規則は改訂され、これに合わせて給与システムも改訂された。改定後の給与システムでは、従前の職能資格制度を基本的には維持しつつも、社員の人物、能力、成績等を勘案して昇減給をおこなう旨の規定が設けられ、変動賃金制となった
(3) Xらは、Y社の職能資格制度は労働者の同意なく資格や号俸の引下げを可能とするものではなく、Y社による一方的な賃金減額は許されないなどと主張して、差額賃金分の支払いを求めた。

判旨・判決の要約 一部却下、一部認容、一部棄却

 改定前の就業規則及び給与システムは、いったん備わっていると判断された職務遂行能力が、営業実績や勤務評価が低い場合にこれを備えないものとして降格されることは何ら予定されていなかったものである。
 また、経営方針書及びセールスマニュアルにも、右の降格可能性を裏付ける記載はなかった。
 さらに、実際に行われた人事を見ても、例外的な場合を別とすれば、成績不振を理由に降格、職能給の減額という措置が執られなかったことはなかったものというべきである。
 このほか、Yが主張する変動賃金制を裏付ける労使慣行、合意その他の法的根拠も認められない。給与システム改定については、就業規則の合理性が認められないため、改訂前と同様降格及び減給に法的根拠はない。

解説・ポイント

 職能資格制度においては、一旦到達した職務遂行能力(資格や等級)が引き下がることは本来予定されていません。
 そのため、資格や等級を引き下げる降格は、役職を解く降格の場合とは異なり、労働契約上使用者に当然に認められるものではなく、合意により変更する場合以外は、職能資格制度について定めた就業規則等に引き下げがあり得る旨を明記するなどして、特別の労働契約上の根拠を持たせることが必要となります。
 つまり、職能資格を降格させることは、基本給の変更という労働契約上の地位の変更にあたります
 そのため、使用者が降格制度を導入する際には、労働者の同意や就業規則など合理的な内容をもつ契約上の根拠があることを確認しなければなりません。

 なお、就業規則を労度契約上の根拠として用いるためには、就業規則の有効要件(周知性、合理性)を満たしていることが必要です。