第1 相続財産管理人とは

1意義

 相続財産管理人とは、相続人の存在、不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する者がいなくなった場合も含まれます。)に、申立てにより、家庭裁判所によって選任される相続財産の管理人のことをいいます。

相続財産管理人となるために、特別な資格は必要ありませんが、実務では、相続に関する法律に詳しい弁護士や司法書士等の専門職が選ばれています
 なお、相続財産管理人が選任された場合には、家庭裁判所により官報へ掲載(これを「公告」といいます)されることになります(民法952条2項)。

2目的

 被相続人にみるべき相続財産がない場合にも、債権回収、財産分与、権利行使、国庫帰属など目的はさまざまです。目的に応じて相続財産管理人選任の申立てを検討する必要があります

(1)債権回収を目的とする場合

 具体例として、自治体首長が申し立てる滞納状態となっている固定資産税などの地方税の回収やマンション管理組合が申し立てる管理費・修繕積立金滞納分の回収などが挙げられます。
  この場合は債権の回収という経済的利益を得ること目的としているため、相続財産管  理人を申し立て、申立費用や家庭裁判所への予納金を出捐した結果、経済的にマイナス  になるような場合には、申し立てのメリットはないことになります。

(2)特別縁故者への財産分与を目的とする場合

 相続債務が相続財産の総額を上回っている債務超過型の事案では、相続財産が相続債  権者に対する弁済に充てられ、分与の対象となる財産がなくなってしまいます。
 そのため、自らが特別縁故者として認められ、相続財産が相続債務の総額を上回ることが見込まれる場合には申し立てをするメリットがあります

(3)権利行使を目的とする場合

 具体例として、親族間で未了であった遺産分割を目的とする場合や相続財産法人が登  記義務者である不動産につき移転登記手続を行うことを目的とする場合などが挙げられ  ます。
 この場合は、純粋に経済的利益を目的としていないため、被相続人にみるべき財産が  なく、相続財産法人が債務超過であったとしても、目的達成手段として、申し立てをす  るメリットがあります。
 もっとも、特別代理人の申し立てを利用する方が、相続財産管理人の選任を申し立て  るよりも経済的な負担が軽くなることがありますので、併せて検討するべきです。

(4)国庫帰属を目的とする場合

 具体例として、成年後見人や第三者が被相続人の財産を事実上管理していた場合に、これらの者が財産管理の負担を免れるため、国庫への帰属を目的として相続財産管理人の選任を申し立てる場合などが挙げられます。

第2 相続財産管理人の申立人

 相続財産管理人は、利害関係人又は検察官の請求によって、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が選任します(民法952条1項、家事事件手続法203条1号・別表第1の99)。
 
 「利害関係人」とは、相続債権者、相続債務者、特定遺贈の受遺者、徴税権者としての国、特別縁故者として遺産の分与を申し立てる者、被相続人から財産権を取得した者、相続財産に属する財産の上に担保を得ている者などが挙げられます。

 なお、相続財産管理人の選任は、これら利害関係人や検察官の請求を待ってなされるため、家庭裁判所が職権で選任することはできません。

第3 相続財産管理人の申立手続

1 申立先

 相続財産管理人の申立先は、上記の通り、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

2 費用について

相続財産管理人の申立には①収入印紙800円分、②連絡用の郵便切手、③官報公告料4230円が必要となります。

 相続財産の内容から、相続財産管理人が相続財産を管理するために必要な費用(相続財 産管理人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、相続財産管理人が 円滑に事務を行うことができるように、申立人は相当額を予納金として納付する必要があ る場合があります
 
 近時、少額の債権回収の手続の利便性を目的として、相続財産管理人、不在者財産管理 人の予納金額は、おおむね50万円程度と低額化しており、事案の内容によって更に減額されることもあります。
 なお、上記の通り、予納金の負担者は、通常、申立人となります。
 予納金については、相続財産理人によって一定の相続財産が確保された後、共益費用として優先的に返還を受けられることになります。また、予納金以外の費用も、その費目や相続財産の状況によっては、相続財産から償還を受けられる可能性があります。  

3 必要な書類について

 相続財産管理人の申立てに必要な書類として、申立書や被相続人の出生から死亡までの 戸籍謄本(除籍や改製原戸籍)など添付書類が必要なります。
 具体的な必要書類については裁判所の「相続財産管理人の選任」をご覧ください。
 なお、申立書には、申立人の利害関係を証する資料を添付することが必要となります。  例えば、申立人が相続債権者である場合には、借用書等の債権の存在を証する書類、申 立人が特定遺贈の受遺者の場合には、遺言書の写し、相続財産の分与を請求する場合に  は、特別縁故の事実を疎明する書類等を提出することが必要となります。

4 申立に必要な調査について

 相続財産管理人選任の申立書に添付する財産目録には、破産手続きの開始を申し立てる 場合のように被相続人の被相続財産を漏れなく記載することまでは要求されていません。 そのため、申立ての調査は、網羅的なものでよいとされています。
 相続財産が存在していることを判断できれば、申立ての要件の判断材料しては足ります し、申立て後に管理人が財産調査を行うことになるからです。

第4 相続財産管理人の地位

1 地位

 相続財産管理人は、不在者の財産管理人と同様の権利義務を有するため、法定代理人と しての地位を有します。たとえば、相続財産管理人は、相続財産の現状調査義務や管理義 務、財産目録作成義務などを有しています(民法953条)。
 なお、上記管理義務に関しては、相続財産管理人は、保存行為と利用・改良行為を行う ことはできますがその範囲を超えて、被相続人の動産や株式、有価証券の売却などの処分 行為をするためには、家庭裁判所の許可が必要となります(民法953条)。

2 相続人の存在が後日明らかとなった場合

 被相続人死亡後、相続人の存在が明らかになる前に相続財産管理人が行った行為につい ては、相続財産管理人は法定代理人の地位を有しているため、有効と扱われます(民法9 55条但書き)。
 そして、この相続財産管理人の法定代理権は相続人が相続を承認(単純承認・限定承  認)するまで存続します(民法956条1項)。相続人が相続の承認をしたことにより、相 続財産管理人の代理権が消滅した時は、相続財産管理人は、遅滞なく、管理の計算をして (民法956条2項)、相続人に報告しなければなりません。

 なお、相続財産管理人が、相続債権者に対する弁済のため、被相続人の相続財産の換価 を進めている途中で、相続人と称する者が現れた場合には、速やかに換価を一旦停止し、 家庭裁判所と相談しながら、相続人か否か、相続人が相続を承認するか否かを調査・確認 する必要があります

第5 相続債権者・受遺者に対する債権申出の公告・催告

1 請求申出の公告・催告

 相続財産管理人は、選任公告の官報掲載日の翌日から2ヶ月が経過しても相続人が現れ なかった場合、遅滞なく請求申出の公告及び「知れている相続債権者・受遺者」への請求 申出の催告を行う必要があります。
  
 ここで、「知れている相続債権者・受遺者」とは、管理人において、相続債権者・受遺 者であると認めている者をいいます(横浜地判昭40.3.29判時409・41)。
 そのため、債権の不存在が明らかである場合や、消滅時効期間の経過が明らかである場 合には請求申出催告をする必要はありません。
  
 請求申出の催告は、権利の承認(民法152条1項)に該当する場合もあると考えられま すので、消滅時効期間が疑われる場合には、不用意な催告は避けるべきです
 一方、相続財産管理人が請求申出の公告・催告を怠ったことにより相続債権者・受遺者 に損害を与えた場合には、相続財産管理人はその損害を賠償する責任を負うことになる  (民法957条2項・同934条1項)ので注意が必要です。

2 公告・催告の時期

 請求申出の公告は、相続債権者・受遺者に対し、相続財産の清算手続が開始されたこと を公知し、また、選任公告に次ぐ第2回目の相続人捜索公告の意味を有しています
  
 請求申出の公告期間が満了しないと、相続財産管理人は、相続債権者又は受遺者に対し 弁済することができませんので(民法957条2項、929条、931条)、相続債権者が速やか に弁済を受けられるよう、迅速に請求公告の申出を行う必要があります。
 そのため、相続財産管理人は、請求申出の公告の官報掲載までの期間を考慮した上で、 相続財産管理人選任公告の掲載日の翌日から2ヶ月が経過した後、すぐに請求申出の公告 が官報に掲載されるよう、あらかじめ、申込みを行うのが相当です

3 請求申出の公告の手続

 請求申出の公告は、官報に掲載して行います(民法957条2項、927条4項)。
 公告の申込みの手続は、①申込み・入稿⇒②原稿作成等⇒③校正⇒④掲載⇒⑤代金支払 となります。
 公告の種類により、官報の本紙又は号外に掲載されることになりますが、請求申出の公 告は号外に掲載され、申込みから掲載までの期間は、通常3週間程度となっています

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