目次

  1. 相続財産管理人とは
  2. 相続財産管理人の申立人
  3. 相続財産管理人の申立手続
  4. 相続財産管理人の地位
  5. 相続債権者・受遺者に対する債権申出の公告・催告
  6. 相続債権者・受遺者への弁済
  7. 相続人捜索の公告と相続人不存在の確定
  8. 特別縁故者に対する相続財産の分与
  9. 相続財産管理の終了
  10. まとめ

相続財産管理人とは

1意義

 相続財産管理人とは、相続人の存在、不存在が明らかでないとき(相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する者がいなくなった場合も含まれます。)に、申立てにより、家庭裁判所によって選任される相続財産の管理人のことをいいます。

相続財産管理人となるために、特別な資格は必要ありませんが、実務では、相続に関する法律に詳しい弁護士や司法書士等の専門職が選ばれています
 なお、相続財産管理人が選任された場合には、家庭裁判所により官報へ掲載(これを「公告」といいます)されることになります(民法952条2項)。

2目的

 被相続人にみるべき相続財産がない場合にも、債権回収、財産分与、権利行使、国庫帰属など目的はさまざまです。目的に応じて相続財産管理人選任の申立てを検討する必要があります

(1)債権回収を目的とする場合

 具体例として、自治体首長が申し立てる滞納状態となっている固定資産税などの地方税の回収やマンション管理組合が申し立てる管理費・修繕積立金滞納分の回収などが挙げられます。
  この場合は債権の回収という経済的利益を得ることを目的としているため、相続財産管理人を申し立て、申立費用や家庭裁判所への予納金を出捐した結果、経済的にマイナスになるような場合には、申し立てのメリットはないことになります。

(2)特別縁故者への財産分与を目的とする場合

 相続債務が相続財産の総額を上回っている債務超過型の事案では、相続財産が相続債権者に対する弁済に充てられ、分与の対象となる財産がなくなってしまいます。
 そのため、自らが特別縁故者として認められ、相続財産が相続債務の総額を上回ることが見込まれる場合には申し立てをするメリットがあります

(3)権利行使を目的とする場合

 具体例として、親族間で未了であった遺産分割を目的とする場合や相続財産法人が登記義務者である不動産につき移転登記手続を行うことを目的とする場合などが挙げられます。
 この場合は、純粋に経済的利益を目的としていないため、被相続人にみるべき財産がなく、相続財産法人が債務超過であったとしても、目的達成手段として、申し立てをするメリットがあります。
 もっとも、特別代理人の申し立てを利用する方が、相続財産管理人の選任を申し立てるよりも経済的な負担が軽くなることがありますので、併せて検討するべきです。

(4)国庫帰属を目的とする場合

 具体例として、成年後見人や第三者が被相続人の財産を事実上管理していた場合に、これらの者が財産管理の負担を免れるため、国庫への帰属を目的として相続財産管理人の選任を申し立てる場合などが挙げられます。

相続財産管理人の申立人

 相続財産管理人は、利害関係人又は検察官の請求によって、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が選任します(民法952条1項、家事事件手続法203条1号・別表第1の99)。
 
 「利害関係人」とは、相続債権者、相続債務者、特定遺贈の受遺者、徴税権者としての国、特別縁故者として遺産の分与を申し立てる者、被相続人から財産権を取得した者、相続財産に属する財産の上に担保を得ている者などが挙げられます。

 なお、相続財産管理人の選任は、これら利害関係人や検察官の請求を待ってなされるため、家庭裁判所が職権で選任することはできません。

相続財産管理人の申立手続

1 申立先

 相続財産管理人の申立先は、上記の通り、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

2 費用について

 相続財産管理人の申立には①収入印紙800円分、②連絡用の郵便切手、③官報公告料4230円が必要となります。

 相続財産の内容から、相続財産管理人が相続財産を管理するために必要な費用(相続財産管理人に対する報酬を含む。)に不足が出る可能性がある場合には、相続財産管理人が円滑に事務を行うことができるように、申立人は相当額を予納金として納付する必要がある場合があります
 
 近時、少額の債権回収の手続の利便性を目的として、相続財産管理人、不在者財産管理人の予納金額は、おおむね50万円程度と低額化しており、事案の内容によって更に減額されることもあります。
 なお、上記の通り、予納金の負担者は、通常、申立人となります。
 予納金については、相続財産理人によって一定の相続財産が確保された後、共益費用として優先的に返還を受けられることになります。また、予納金以外の費用も、その費目や相続財産の状況によっては、相続財産から償還を受けられる可能性があります。  

3 必要な書類について

 相続財産管理人の申立てに必要な書類として、申立書や被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍や改製原戸籍)など添付書類が必要なります。
 具体的な必要書類については裁判所の「相続財産管理人の選任」をご覧ください。
 なお、申立書には、申立人の利害関係を証する資料を添付することが必要となります。例えば、申立人が相続債権者である場合には、借用書等の債権の存在を証する書類、申立人が特定遺贈の受遺者の場合には、遺言書の写し、相続財産の分与を請求する場合には、特別縁故の事実を疎明する書類等を提出することが必要となります。

4 申立に必要な調査について

 相続財産管理人選任の申立書に添付する財産目録には、破産手続きの開始を申し立てる場合のように被相続人の被相続財産を漏れなく記載することまでは要求されていません。そのため、申立ての調査は、網羅的なものでよいとされています。
 相続財産が存在していることを判断できれば、申立ての要件の判断材料としては足りますし、申立て後に管理人が財産調査を行うことになるからです。

相続財産管理人の地位

1 地位

 相続財産管理人は、不在者の財産管理人と同様の権利義務を有するため、法定代理人としての地位を有します。たとえば、相続財産管理人は、相続財産の現状調査義務や管理義務、財産目録作成義務などを有しています(民法953条)。
 なお、上記管理義務に関しては、相続財産管理人は、保存行為と利用・改良行為を行うことはできますがその範囲を超えて、被相続人の動産や株式、有価証券の売却などの処分行為をするためには、家庭裁判所の許可が必要となります(民法953条)。

2 相続人の存在が後日明らかとなった場合

 被相続人死亡後、相続人の存在が明らかになる前に相続財産管理人が行った行為については、相続財産管理人は法定代理人の地位を有しているため、有効と扱われます(民法955条但書き)。
 そして、この相続財産管理人の法定代理権は相続人が相続を承認(単純承認・限定承認)するまで存続します(民法956条1項)。相続人が相続の承認をしたことにより、相続財産管理人の代理権が消滅した時は、相続財産管理人は、遅滞なく、管理の計算をして(民法956条2項)、相続人に報告しなければなりません。

 なお、相続財産管理人が、相続債権者に対する弁済のため、被相続人の相続財産の換価を進めている途中で、相続人と称する者が現れた場合には、速やかに換価を一旦停止し、家庭裁判所と相談しながら、相続人か否か、相続人が相続を承認するか否かを調査・確認する必要があります

相続債権者・受遺者に対する債権申出の公告・催告

1 請求申出の公告・催告

 相続財産管理人は、選任公告の官報掲載日の翌日から2ヶ月が経過しても相続人が現れなかった場合、遅滞なく請求申出の公告及び「知れている相続債権者・受遺者」への請求申出の催告を行う必要があります。
  
 ここで、「知れている相続債権者・受遺者」とは、管理人において、相続債権者・受遺者であると認めている者をいいます(横浜地判昭40.3.29判時409・41)。
 そのため、債権の不存在が明らかである場合や、消滅時効期間の経過が明らかである場合には請求申出催告をする必要はありません。
  
 請求申出の催告は、権利の承認(民法152条1項)に該当する場合もあると考えられますので、消滅時効期間が疑われる場合には、不用意な催告は避けるべきです
 一方、相続財産管理人が請求申出の公告・催告を怠ったことにより相続債権者・受遺者に損害を与えた場合には、相続財産管理人はその損害を賠償する責任を負うことになる(民法957条2項・同934条1項)ので注意が必要です。

2 公告・催告の時期

 請求申出の公告は、相続債権者・受遺者に対し、相続財産の清算手続が開始されたことを公知し、また、選任公告に次ぐ第2回目の相続人捜索公告の意味を有しています
  
 請求申出の公告期間が満了しないと、相続財産管理人は、相続債権者又は受遺者に対し弁済することができませんので(民法957条2項、929条、931条)、相続債権者が速やかに弁済を受けられるよう、迅速に請求公告の申出を行う必要があります。
 そのため、相続財産管理人は、請求申出の公告の官報掲載までの期間を考慮した上で、相続財産管理人選任公告の掲載日の翌日から2ヶ月が経過した後、すぐに請求申出の公告が官報に掲載されるよう、あらかじめ、申込みを行うのが相当です

3 請求申出の公告の手続

 請求申出の公告は、官報に掲載して行います(民法957条2項、927条4項)。
 公告の申込みの手続は、①申込み・入稿⇒②原稿作成等⇒③校正⇒④掲載⇒⑤代金支払となります。
 公告の種類により、官報の本紙又は号外に掲載されることになりますが、請求申出の公告は号外に掲載され、申込みから掲載までの期間は、通常3週間程度となっています

相続債権者・受遺者への弁済

1 弁済の順序

相続財産管理人は、以下の順序で弁済をします。
① 優先権を有する債権者(民法957条2項、929条但書)
② 請求申出期間内に請求の申出をした相続債権者、その他知れている相続債権者(民法957条2項、929条本文)
③ 請求申出期間内に請求の申出をした受遺者、その他知れている受遺者(民法957条2項、929条、931条)
④ 請求申出期間内に請求の申出をせず、知れなかった相続債権者(民法957条2項、935条)
⑤ 請求申出期間内に請求の申出をせず、知れなかった受遺者(民法957条2項、935条、931条)
 優先権を有する債権者のうち、相続財産に留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権を有する債権者は、担保権を行使して(民執180条以下)、被担保債権の満足を受けることができます。

2 期間内に請求の申出があった場合

 優先権を有する債権者が存在しないか、これらの者に対する弁済を終えて、なお残余財産がある場合には、請求申出期間内に請求の申出をした相続債権者、その他知れている相続債権者に対して弁済を行い、その後に、受遺者に対して弁済することになります(民法957条2項、931条)。
 この段階でこれらの者の債権額につき、全額を弁済できない場合には、按分弁済をすることになります
 なお、知れている相続債権者・受遺者については、請求申出期間内に請求の申出がなくとも弁済から除斥されません。 

3 期間内に請求の申出がなかった場合

 請求申出期間内に請求の申出をした相続債権者、その他知れている相続債権者及び受遺者が存在しないか、これらの者に対する弁済を終えて、なお残余財産がある場合には、まず、請求申出期間内に請求の申出をせず、相続財産管理人に知れなかった相続債権者に対して弁済を行い、その後に、受遺者に弁済することになります。この段階でこれらの者の債権額につき、全額を弁済できなかった場合には、期間内に請求の申出があった場合と同様、按分弁済することになります
 なお、請求申出期間内に請求の申出をせず、相続人捜索公告期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、その権利を行使することができなくなります(民法958条の2)。

相続人捜索の公告と相続人不存在の確定

 「相続人捜索の公告」とは、請求申出期間の満了後、なお相続人のいることが明らかでないときに、家庭裁判所が管理人又は検察官の請求により、6か月以上期間を設けて、相続人に対して権利主張を促すことをいいます(民法958条)。
 この相続人捜索の公告は、相続財産管理人の選任の公告(民法952条)、請求申出の公告(民法957条1項)に次いで、第3回目かつ最後の相続人捜索の公告という趣旨も有しています。清算するべき残余財産がない場合には、この公告は不要となります。

 この公告期間内に相続人である旨の申出があり、その者が相続人と認められ、相続を承認すれば、相続財産管理手続は終了することになります。他方、この公告期間内に相続人である旨の申出がないまま期間が徒過すれば、相続人の相続権は消滅することになります(民法958条の2)。
 
 通常、相続財産管理人の選任に際して、申立人は、被相続人の相続関係を明らかにするため、戸籍謄本等一式を提出し、戸籍上、相続人が不存在であることを明らかにしています。そのため、相続財産管理人選任後に、相続人である旨の申出があることは多くありません。
 もっとも、認知の訴え(民法787条)や親子存在確認の訴え等の人事訴訟により、相続財産管理人選任後に、相続人であることが確定し、当該相続人が相続を承認することがあります。その場合、相続財産管理人は、選任処分取消の審判を受けて、管理の計算及び相続財産の引継ぎを行うことになります(家事事件手続法208条、125条7項、民法955条、956条)。

特別縁故者に対する相続財産の分与

1 特別縁故者制度の意義

 民法958条の2により相続人の不存在が確定した場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後に残存する相続財産の全部又は一部を与えることができます(民法958条の3第1項)。
  
 特別縁故者への財産分与の制度は、家庭裁判所の裁量の上に成り立っているため、特別縁故者にあたるとしても、相続財産を分与しないのが相当であると認められる場合には、家庭裁判所は、その者に対して財産分与をしなくてもよいことになります。
 特別縁故者が相続財産の全部又は一部を取得するのは、家庭裁判所の審判によるものであって、相続によるものではありません。また、分与の対象となるのは、清算後の残余財産であり、特別縁故者が相続債務を承継して負担することはありません。

2 特別縁故資格者の地位

 特別縁故者として財産分与を受けようとする者は、自然人に限られず、法人でもよいとされています。
 特別縁故者としての地位は、被相続人との個人的な関係に基づく一身専属性の強い地位です。そのため、特別縁故関係があるとみられる者が相続財産の分与を申し立てることなく死亡した場合に、この者の相続人がその地位を相続により承継したとして財産分与の申し立てをすることはできません。
 もっとも、特別縁故者として相続財産の分与の申立てがなされた後に、申し立てた者が死亡した時は、この者の相続人がその地位を相続により承継することになります(大阪高決平4.6.5家月45-3-49)。

3 特別縁故者に対する財産分与の申立時期

 特別縁故者に対する財産分与の申立時期は、相続人捜索公告(民法958条)の期間が満了し、相続人が不存在であることが明らかになった後、3か月以内にしなければなりません(民法958条の3)。
 もっとも、実務上、相続人捜索公告期間中に特別縁故者に対する財産分与の申立てがあった場合でも、相続人捜索公告期間の満了を待ち、相続権を主張する者が現れなければ、申立ては適法として取り扱われています(神戸家審昭51.4.24判時822・17)。

4 国庫帰属の手続

 相続財産管理人は、財産分与審判の確定後又は相続人捜索公告期間が満了し、財産分与期間が満了した後に国庫に帰属すべき残余財産が生じた場合、この残余財産を国庫に帰属させる準備を進めます。
 国庫帰属の手続は、財産の種類によって異なります。
 現金(内国通貨)、金銭債権、国債は家庭裁判所が引継ぎの窓口となります。外国通貨・物品類においても、実務上、現金に換価した上で家庭裁判所が引継ぎの窓口となります
 不動産・船舶・航空機・地上権・地役権・鉱業権その他これに準ずる権利、株式・社債・地方債などの有価証券類は、所管財務局に引き継ぐものとされています。実務上は、現金に換価可能なものは換価され、家庭裁判所が引継ぎの窓口となっています。

相続財産管理の終了

1 相続人不存在の確定

 相続人が現れないまま6か月の相続人捜索の公告期間が満了すると、相続人の不存在が確定します。このとき、公告期間内に相続申出をした者の相続権確認訴訟が係属していても、この訴訟の当事者以外の者による相続申出について、当該訴訟の確定まで公告期間が延長されるものではないとされています(最判昭56.10.30民集35-7-1243)。

 相続人の不存在が確定すると同時に、相続財産管理人に知れなかった相続債権者・受遺者・相続人は失権します(民法958条の2)。
 したがって、958条の定める公告期間を徒過した相続人は、特別縁故者に対する相続財分与後の残余財産についても相続権を有しないことになります。

2 失権の範囲

 相続人不存在の確定により失権するのは、相続権と相続財産管理人が相続財産を用いて清算できる権利となります。賃借権、地上権、地役権などのように相続財産管理人が清算できない権利は消滅しません。
 これらの権利は、第三者対抗要件を具備している限り、相続財産の承継人である国庫や特別縁故者に対抗することができることになります。

3 相続財産管理人の報酬

 相続財産管理人が報酬を受けるためには、管理業務終了前に家庭裁判所に対して報酬付与の申立てを行い、審判を受けることが必要となります
 相続財産管理人の報酬は、原則として、家庭裁判所が相続財産の中から与えることになりますが(民法953条、29条2項)、相続財産が十分にない場合は、相続財産管理人選任の申立人の予納金から与えられることになります。

相続財産管理人の選任申立を弁護士に依頼したときの弁護士費用の相場

 相続財産管理人選任申立を弁護士に依頼したときの弁護士費用は、福岡の弁護士は概ね33万円前後で依頼を受けていることが多いと思います。
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まとめ

 相続人が不存在である場合や相続人がいても相続放棄している場合には、被相続人の相続財産を管理するために相続財産管理人の選任の申立てを検討する必要があります。
 また、これまでの説明のとおり、相続財産管理人の申立てには多数の必要書類があり、申立て後には相続財産の財産調査等も必要となります。加えて、相続財産の管理には善管注意義務が課されることや相続人の不存在が確定し、相続財産管理の終了まで長期間を要すること等を考慮すると、その手続や財産管理の負担は大きいものとなります
 
 弁護士法人いかり法律事務所には、相続財産管理人の申立て手続に詳しい弁護士が多数所属していますので、相続財産を管理する者が不存在で相続財産管理人の選任申立てを検討している方は、お気軽にご相談ください