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 この裁判例は、契約期間の定めの有無・定年制の有無についても賃金・退職金と同様重要な労働条件の変更に当たるとして慎重な合意認定を行う必要があると判断した点に意義があります。

事案の概要

(1)被告Yは、障害児童へのデイサービス事業を営む会社でした。Y代表は、取締役Aに対し、多数の求職者が応募する形で募集要領を記載するよう指示しました。
(2)この指示を受けてAは、雇用形態:正社員・雇用期間の定めなし・定年制なし・就業規則なし等と記載した求人票を作成し、ハローワークに求人申し込みをしました。
(3)原告Xは、Yの求人票の雇用条件に魅力を感じ、Yに応募し、面接等を経て採用されることになりましたが、この時、労働契約書は作成されていなかったため、求人票と同一の条件であるかなど具体的な雇用条件を確認することはできませんでした。
(4)Xが就労を開始して1か月後、Yから労働条件通知書(本件通知書)の提示・説明がなされました。その内容は、「雇用期間の定めあり」「定年制あり」などとするもので、求人票と大きく雇用条件が異なるものでした。
(5)Xは、Yの提示を拒否すれば生活の糧を失われることをおそれ、しぶしぶ署名・押印することにしました。そして、期間満了後、Xは退職することとなりました。
(6)そこで、Xは、主位的にYとの労働契約は期間の定めのないものであり、Yによる解雇は無効であると主張し、予備的にYが行った雇止めは無効であり、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇又は雇止めの翌日以降の分の賃金の支払い等を求めて提訴しました。

判旨・判旨の概要 一部認容・一部棄却

(1)求人票の記載と労働契約の内容について
 求人票記載の労働条件は、当事者間でこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である。
 定年制は、その旨の合意をしない限り労働契約の内容とならないから、求人票の記載と異なり定年制があることを明確にしないまま採用を通知した以上、定年制のない労働契約が成立したと認めるのが相当である。
(2)求人票記載の労働条件の変更と同意
 労働条件の変更が賃金や退職金など重要な労働条件に関する場合、当該変更に関する労働者の同意の有無は慎重になされるべきであり、諸般の事情を考慮して労働者が自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきと解するのが相当である。
 本件において、雇用期間の定めや定年制の定めの有無は、賃金と同様に重要な労働条件にあたるため、労働条件の変更の同意にあたり、慎重な判断が必要であった。
 本件の事情からXが署名・押印した行為は、Xの自由な意思に基づいてなされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは言えず、労働条件の変更についてXの同意は認められない。
 したがって、本件労働契約は現在も継続している。

解説・ポイント

 本件と類似した事例として、採用内定後に労働条件を不利益に変更する場合が挙げられます。採用内定後、入社前における労働条件の変更においては、通常、時間的に大きな間隔がないので、労働条件変更の要素(積極的理由)である「必要性」については、採用内定時に適用されていた労働条件をなぜ内定後になって変更しなければならないこととなったのか、その合理的な説明などが必要となってきます。
 具体的には、当該労働条件の不利益変更の内容に関する資料を配布のうえで不利益変更の内容を説明することや、必要に応じて意見聴取の機会を付与することが必要となると考えられます。変更する労働条件の内容など事例によりその対応策は異なりますので、適切な内容・方策を検討される場合は、労務専門の弁護士などに相談することをご検討ください。