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 この判決は、「労働時間」について、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれていたものと判断しました。

事案の概要

(1)従業員は、①午前の始業時刻前に事業所内に入って、②所定の更衣所等において作業服等を装着して準備体操場まで移動し、③午前の始業時刻前に副資材等の受出し及び散水等を行い、④午前の終業時刻後に作業場等から食堂等まで移動し、また更衣所等において作業服等の一部を脱離するなどし、⑤午後の始業時刻前に、食堂等から更衣所等まで移動して作業服等を再び装着し、⑥午後の終業時刻後に作業場等から更衣所等まで移動して作業服等の脱離を行い、⑦手洗い・洗面・入浴を行った後に通勤服を着用し、⑧更衣所等から事業所外に退出していた。

(2)従業員は、所定労働時間外に行われた①~⑧の各行為が労働基準法上の労働時間に該当するとして、会社に対し割増賃金の支払を求めた。

第一審及び控訴審は労働者の請求を一部認容

判旨・判決の要約 上告棄却

(1)労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる

(2)作業服等の装着及び更衣所等から準備体操場までの移動は、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。
 また、副資材等の受出し及び散水も同様である。
 さらに、実作業の終了後も、更衣所等において作業服等の脱離等を終えるまでは、いまだ会社の指揮命令下に置かれているものと評価することができる。

解説・ポイント

 判例の「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」という労働時間の定義は、抽象的過ぎて、この基準で判断することは困難であるといわざるを得ません。そこで、労働時間の判断にあたっては、ある時間の労働者の過ごし方に使用者の関与の程度と当該過ごし方の業務性が希薄であっても労働時間性を認め、業務性が強度であれば使用者の関与が希薄であっても労働時間性を認めることになります。