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 この判決は、三六協定を締結する際に、役員も加入する会社の親睦団体の代表者を自動的に労働者側の当事者となる「過半数代表者」として選出する方法は適法ではないとし、親睦団体の代表者が自動的に過半数代表者となって使用者と締結した三六協定に基づく時間外労働の効力を否定しました。

事案の概要

(1)会社は、役員を含む全従業員により構成される親睦団体「トーコロ友の会」の代表者を「労働者の過半数を代表する者」として、三六協定を締結し、所轄労基署に届け出た。
(2)会社の上司から担当業務の増加の申入れや、自発的に残業をする旨の説得があったが、従業員はこの指示に応じることはなかった。
(3)当該従業員の担当していない部署で業務の遅れが生じていたため、上司から当該従業員に対して残業命令が発せられたが、眼精疲労などを理由に残業命令に応じなかった。
 また、当該従業員は、有給休暇の利用に関する上司の発言に対して、労基法を遵守するよう求めたり、人事考課表の提出に際し、自己評価欄への記載を拒んだりした。
(4)会社は、当該従業員に対して、自己都合退職を勧告したが、当該従業員はこれを拒否したため、普通解雇を行った
(5)当該従業員は、本件解雇は無効として、雇用契約上の地位の確認と解雇後の賃金支払及び解雇は不法行為又は債務不履行に当たるとして慰謝料を請求した。

第一審は従業員の請求を認容し、控訴審は控訴を棄却した。

判旨・判決の要約 上告棄却

(1)使用者が、当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば、労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間に定める労働時間を超えて労働する義務を負う。
(2)「労働者の過半数を代表する者」は当該事業場の労働者により適法に選出されなければならないが、適法な選出といえるためには、選出される者が労働者の過半数を代表して三六協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要というべきである。
(3)「トーコロ友の会」は、親睦団体であるから、労働組合でないことは明らかである。  
 また、「トーコロ友の会」の代表者が、自動的に本件三六協定を締結したに過ぎないときには、当該代表者は、労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないから、本件三六協定は無効である。
 したがって、当該従業員は、本件残業命令に従う義務があったとはいえず、本件解雇は無効である。

解説・ポイント

 過半数代表者の選出に当たっては、第一に、少なくとも労基法上のどの規定に基づく代表者の選出なのかを明らかにする必要があり、第二に、その後、投票や挙手などの民主的手続により過半数代表者を選出することが必要です。
 労働者の話し合いや持ち回り決議によることも可能と解されますが、各職場での信任手続を積み上げるような間接的な手続や労働者への回覧により確認するような手続は民主的な手続としては不十分といえます。