相続法が改正されて,順次施行されています。施行順にみていきましょう。

1 自筆証書遺言が少し楽に作れるようになりました(2019年1月13日施行)。

  自筆証書遺言について,財産目録については自分で手書きをしなくてもよくなりました。ただし,パソコンなどで作成した目録の毎葉に署名押印する必要はあります。改正前は,財産目録も含めて全て自分で手書きをする必要がありましたが,このように緩和されました。

 したがって,今後は,遺言書の財産目録の作成は,パソコンですることができます!ただし,遺言書の本文部分は手書きが必要なのでその点はご注意ください。

 

2 婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置ができました(2019年7月1日施行)。

 20年以上連れ添った夫婦の間で,住むための家や土地が遺贈又は贈与された場合,遺産分割のときに,原則として,居住建物等の価額を相続財産の中に含めて考えなくてよくなりました。

 改正前までは,配偶者に居住建物等が遺贈又は贈与された場合,原則として居住建物等の価額を相続財産の中に含めたうえで,配偶者の相続分を考えることとされていました。そのため,「自分が亡くなった後も夫あるいは妻に,それまで同様住み慣れた家で生活してほしい」と思って,居住建物等を遺贈又は贈与をしても,遺産の前渡しをしたとされて居住建物以外の預貯金などをあまりもらえなくなったりするということになっていました。

この点,今回の改正で原則と例外が逆転したので,亡くなった人が特段の意思を表示していなくても,その夫あるいは妻は,居住建物は自分のものとしたうえで,さらに遺産分割において相続分の財産を取得することができることになります。

この機会にご夫婦で,どちらかが先に亡くなってしまった後のことについて,話し合ってみてはいかがでしょうか。

 

3 預貯金の払戻し制度ができました(2019年7月1日施行)。

 亡くなった人の預貯金が遺産分割の対象となる場合,相続人が何人かいても,一定の範囲で相続分に応じた預貯金の払い戻しをいつでも受けることができるようになりました。もちろん,払い戻しを受けた預貯金については,遺産の一部を取得したものとみなされます。

 改正前は,相続人が何人かいる場合,遺産分割が終わるまでの間は単独で預貯金の払い戻しを受けることができませんでした。今回の改正で,相続人が何人かいる場合でも,それぞれが法律で決まっている相続分に応じて預貯金の払い戻しができるようになりました。ただし,一つの金融機関から払い戻しができるのは150万円までです。その他,今回の改正で,裁判所の保全処分の要件も緩和されています。具体的には,他の共同相続人の利益を害しないときは,預貯金の仮払いの必要性がある者が,預貯金の全部又は一部を仮に取得することができるようになりました。

 

4 遺留分制度が見直されました(2019年7月1日施行)。

 遺留分を侵害されたとき,遺贈や贈与を受けた人に対して,遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるようになりました。請求を受けた人が金銭をすぐに支払えない場合は,裁判所に請求をして支払い期限を相当な期限にしてもらうことで遅延損害金の発生時点を遅らせることができます。

 改正前は,遺留分を侵害された人から権利行使をされた場合,遺贈又は贈与の一部が無効となるので,無効となった部分は遺留分権利者と遺贈又は贈与を受けた人との間で共有状態となることがありました。共有となると,当該資産を単独で処分することができなくなるなどするため,この共有関係の解消しようと新たな紛争が起こることもあります。

 しかし,改正によって,遺贈又は贈与を受けた人は,遺贈又は贈与を受けたものを単独所有し,遺留分権利者には相当の金銭を支払えばよいということができるようになりました。この改正により,遺贈や贈与をした亡くなった人の意思をより尊重しやすくなりました。

なお,改正前は遺留分減殺請求という言い方がされていましたが,改正によって「減殺」ではなく,「遺留分侵害額の請求権」という言葉が使われることになりました。

 

5 特別の寄与の制度ができました(2019年7月1日施行)。

 亡くなった人の親族だけれども,相続人ではない人で,生前亡くなった人の療養看護等をした人は,相続人に対して金銭の請求をすることができるようになりました。

 改正前は,たとえば,亡くなった人の長男の妻が介護をするなど献身的に尽くしても,相続財産を受け取ることはできませんでした。

 しかし,改正により,相続人に対して,金銭を請求することができるようになったことで,実質的に介護等の貢献が金銭的に評価されることになり,労に報いることができるようになりました。

 

6 配偶者居住権ができます(2020年4月1日施行)。

 相続開始時に,亡くなった人が所有する建物に,その夫又は妻が住んでいた時,夫又は妻は,遺産分割で配偶者居住権を取得することができるようになります。

 配偶者居住権を取得すると,亡くなった人の夫又は妻は一生涯または一定期間,その建物に無償で住むことができます

 改正前までは,「夫又は妻が死亡した後も相続財産である自宅に住み続けたい」と思って自宅の所有権を取得すると,不動産の評価額は高いことが多いため,他の財産を受け取る余地がなくなってしまい生活費などに不安が残るケースがありました。

 この点,今回の改正で新たにできた配偶者居住権をもらうことで,配偶者居住権相当の財産をもらったとは評価されますが,建物の所有権自体をもらうよりは安い金額で評価されることになると考えられます。

 そして,その差額分の他の財産も相続できる余地があることがメリットとなります。ただし,建物が配偶者以外の者との共有である場合は除かれることなど,留意事項もあります。

 

7 配偶者短期居住権もできます(2020年4月1日施行)。

 亡くなった人が所有する建物に,その夫又は妻が無償ですんでいた場合,所定の 期間無償で住み続けることができます。具体的には,夫又は妻を含む共同相続人間で遺産分割がなされる場合は,遺産分割において建物の所有者が誰になるか確定した日または,相続開始の時から6ヶ月を経過する日のどちらか遅い日まで無償で住むことができます。それ以外の場合は,新たに建物の所有者となった人から配偶者短期居住権の消滅の申し入れをされた日から6ヶ月を経過する日まで無償で住むことができます。

 改正前までは,亡くなった人の意思を合理的に解釈して,遺産分割終了までの間無償で居住できるという運用がなされていましたが,亡くなった人がこれとは異なる考えを明確に表明していた場合など,配偶者が保護されない場合がありました。

 そこで,亡くなった人の考えにかかわらず,その夫又は妻が当然に短期間は無償で住み続ける権利があらたに作られました。

 

8 法務局における自筆証書遺言の保管制度ができます(2020年7月10日施行)。

 自筆証書遺言を作ったとき,法務大臣の指定する法務局のうち,遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者の所有する不動産の所在地を管轄するところに遺言書の保管を申請することができるようになります。こうして保管された遺言書は,遺言をした人が亡くなった後,相続人や受遺者,遺言執行者等の関係相続人等が,家庭裁判所の検認手続きを受けることなく内容を確認することができます。

  改正前は,自筆証書遺言の保管制度はなく,自筆証書遺言があることを知らないまま遺産分割が行われたりするといったリスクもありました。また,自筆証書遺言が見つかったときは,家庭裁判所の検認手続きを経る必要がありました。しかし,改正によって,自筆証書遺言を,遺言書保管所で安全に保管してもらうことができるようになりました。そして,遺言者が亡くなった後,関係相続人等は,遺言保管所に遺言書が保管されているかどうかを確認することで,遺言書の存在及び内容を知ることができます。また,誰かが遺言書情報証明書の交付を受けたり閲覧をしたときは,その他の相続人等に通知がいくことになっています。

相続改正後の対応に関する無料相談

 以上,ざっと主な改正点を列記しましたが,改正された点を実際にやってみようとするとわかりにくいところもあると思います。

 自分が亡くなった後のことについて考えてみた時など,どうしたらよいか迷ったら,一度ご相談ください。