懲戒処分は慎重な対応が必要

 懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反に対する制裁罰としての労働関係上の不利益措置のことをいいます。使用者からすると、企業の秩序・維持を維持するために不可欠の制度です。たとえば、経歴詐称、職務懈怠、従業員による業務妨害、職場規律違反などの場合に懲戒処分を検討することになります。
 しかし、一方で、労働者に負っては重大な不利益を受けることになるため、紛争に発展しやすい類型になります。そのため、後々、処分を受けた労働者から無効であると争われないようにするために、懲戒処分は慎重に行う必要があります。

懲戒処分の種類

 懲戒の手段として一般的に用意されている主な処分内容として以下のものがあります。

「けん責」・・・通例、始末書を提出させて将来を戒めることをいいます。②「戒告」・・・通例、将来を戒めるのみで始末書の提出を伴わないもの。③「減給」・・・本来ならばその労働者が現実になした労務提供に対応して受け取るべき賃金額から一定額を差し引くことをいいます。減給を行う際は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法91条)。
「降格」・・・懲戒権行使として役職・職位・職能資格などを引き下げることをいいます。人事権の行使として行う降格もありますが、懲戒権の行使の降格とは区別されます。
「出勤停止」・・・労働契約を存続させながら労働者の就労を一定期間禁止することをいいます。概ね1週間以内や10~15日程度です。長期化する場合には有効性が問題になることがあります。
「諭旨解雇」・・・懲戒解雇に相当する程度の事由がありながら所定期間内に退職願や辞表の提出を勧告し、これに応じない場合に解雇とするなどの、会社の酌量で懲戒解雇より処分を若干軽減した解雇のことをいいます。
「懲戒解雇」・・・懲戒権行使としての解雇処分であり、懲戒処分の中の極刑とされます。通常は解雇予告もしくは予告手当の支払いもせずに即時になされ(※解雇予告除外認定必要)、退職金の全部又は一部が不支給となります(後述)。

懲戒処分の有効性の判断基準

 労働契約法15条は、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定めており、懲戒処分はこの規定に沿って検討していく必要があります。

具体的に紐解くと、以下の3つの要件に分解されます。

1 懲戒処分の根拠の存在                            

 まず、使用者の懲戒権の根拠として、就業規則において、懲戒の理由となる事由と懲戒の種類・程度が明記されていなければなりません。そして、その内容が合理的ある必要があります。

2 懲戒事由への該当性

 次に、労働者の問題の行為が就業規則上の懲戒事由に該当し、「客観的に合理的な理由」があると認められなければなりません。
そのため、企業は客観的資料の収集やヒアリングなどの調査を尽くして事実関係の存否について明らかにした上で、懲戒事由に該当することを裏付けていく必要があります。また、注意を促しても改善の余地が見られないことなどは懲戒処分の客観的合理的理由として重要になってきます。

3 処分の相当性

 最後に、処分の対象となる当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当と言える必要があります。
  これについては、2つの意味があります。
 ひとつは、行為と処分のバランスです。当該行為や情状等を踏まえて、相応の処分でなければならず、重すぎる場合には相当性を欠き無効となります。
 もうひとつは、手続きの相当性です。就業得規則や労働協約上、組合との協議や労使代表から構成される懲戒委員会の討議を図るべきことが定められているなどの場合は、そのような手続きを経なければなりません。このような規定が何もない場合であっても、特段の支障が無い限り、本人に弁明の機会を与えることが求められます。

退職後の懲戒処分

1 退職後の懲戒処分

 実務上多い相談が、退職後に発覚した元従業員の非違行為について、事後的に懲戒処分にできるかという問題です。たとえば、辞表を提出して辞職した後に、重大な非違行為が発覚し懲戒処分にできるのでしょうか。
 この点、懲戒権は企業秩序維持違反に対する制裁罰ですので、労働者が退職し雇用関係が終了した場合には、懲戒権の根拠を失い、懲戒処分をすることはできないと考えられます。もっとも、辞表は提出したが退職日はまだ到来していないという段階にあっては、懲戒権が及んでいるものと考えられます。

2 懲戒処分後に別の事由で懲戒処分とすることについて

 使用者が労働者のある非違行為に対して懲戒処分を行った後に別の非違行為が判明したという場合に、新たに判明した非違行為を既に行った懲戒処分の理由に追加できるのでしょうか。
 最高裁は、「懲戒当時使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情の無い限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明らかであるから、その存在を持って当該懲戒の有効性を根拠づけることができない」と判示し、これを否定しています(山口観光事件・最判平成8年9月26日)。

懲戒解雇と退職金

 企業が懲戒解雇を行った場合、退職金の取扱いが問題になります。懲戒解雇に伴って退職金の全部又は一部を不支給とすることはできるのでしょうか。
 就業規則の退職金規程などに明記しておけば、労使間の労働契約の条件となりますので退職金の全部又は一部の不支給も可能となります。
 しかし、懲戒解雇が有効な場合すべてが許される訳ではありません。退職金は賃金の後払い的性格があるため、労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られると解されています(日本高圧瓦斬工業事件・大阪高判昭和59年11月29日など)。懲戒処分が有効とされる場合であっても、このような基準に照らして別途の検討が必要になる点には注意が必要です。

懲戒処分対応は福岡のいかり法律事務所の弁護士にご相談ください。

  懲戒処分は労働者に不利益処分を科すものであり,厳格な条件の下で認められるものですので,後々紛争になりやすいものでもあります。
 そのため,未然の紛争を防止するためにも,労働法の知識や判例等に照らしながら,慎重に進めていく必要性が極めて高いと言えます。
 福岡のいかり法律事務所では労働法分野の実績を有する弁護士が複数在籍しております。ご相談いただければ,処分発覚から,事実関係の調査,処分の検討・実施,万が一紛争に発展した場合の交渉・訴訟対応に至るまでアドバイスさせていただきますので,お気軽にご相談ください