【読むポイントここだけ】
この判決は,旅行添乗員について,事業場外業務開始前,事業場外業務実施中,事業場外業務終了後の三つの観点から使用者の指揮監督の態様を検討し,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました。
 
【事案の概要】
(1)労働者は,旅行会社が主催する海外ツアーごとに,その実施期間を雇用期間と定めて派遣元に雇用され,添乗員として当該旅行会社に派遣され,添乗業務に従事していた。当該旅行会社の添乗マニュアルには,概ね次の内容の業務を行うべきことが記載されていた。出発日の2日前に出社して最終日程表等を受け取り,出発当日は集合時刻の1時間前までに空港に到着し,航空券等を受け取るなどした後,ツアー参加者の出国手続の案内等を行い,航空機内においては案内等の業務を行った上,到着後はホテルへのチェックイン等を完了するまで手続の代行や案内等を行う。そして,業務終了後においても,帰国後3日以内に派遣元に出社して報告を行い,当該旅行会社に赴いて添乗日報や参加者のアンケート等を提出する。
(2)また,当該旅行会社は,添乗員に国際電話用の携帯電話を貸与し,常にその電源を入れておくものとした上,添乗日報を作成し提出することも指示していた。添乗日報の記載内容は,添乗員の旅程の管理等の状況を具体的に把握し得るものとなっていた。
(3)さらに,添乗員は,ツアーの内容等に変更が生じないように旅程の管理をすることが義務付けられていた。契約上の問題が生じ得る変更等が必要となったときは,当該旅行会社に報告して指示を受けることが求められていた。
(4)当該添乗員は,本件添乗業務には労働基準法38条の2第1項の時間外労働のみなし労働時間制は適用されないとして時間外・休日労働の割増賃金等を請求した。

第一審は添乗員らの請求を棄却したが,控訴審は添乗員の請求を一部認容した。

【判旨 判決の要約】上告棄却
(1)本件添乗業務は,業務の内容があらかじめ具体的に確定されており,添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られている。
(2)本件添乗業務について,旅行会社は,添乗員との間で,あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で,予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事項が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ,旅行日程の終了後は添乗日報によって詳細な報告を受けるものとされている。
(3)以上のような業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等に鑑みると,本件添乗業務については,これに従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難く,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと解するのが相当である。
 
【解説・ポイント】
事業場外労働みなし制が適用される労働は,常態的な事業場外労働(例えば,取材記者や外勤営業社員等)に限らず,臨時的な事業場外労働(例えば,出張等)も含みます。また,労働時間の全部を事業場外で労働する場合のみならず,その一部を事業場外で労働する場合も含みます。
「労働時間を算定し難いとき」とは,事業場外で行われる労働について,その労働態様などから労働時間を十分に把握できるほどには使用者の具体的指揮監督を及ぼしえない場合のことをいいます。この判断については,実際上は当該みなし制をとられる労働者の経済的待遇との兼ね合いにおいてなされるべきといえます。