【読むポイントここだけ】
この判決は,労働者が使用者の業務計画,他の労働者の休暇予定等との事前の調整を経ることなく,始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時期指定をした場合には,時季変更権の行使において,使用者にある程度の裁量的判断が認められると判断しました。
 
【事案の概要】
(1) 労働者は,本社第一編集局社会部の記者として勤務し,科学技術記者クラブに単独配置され,科学技術関係の多岐にわたる分野を担当していた。
(2) 当該労働者は,上司の社会部長に対して,約1か月の年次有給休暇を取りたい旨を申し入れた。これに対して,社会部長は,約1か月も不在では取材報道に支障を来すおそれがあり,代替要員を配置する人員の余裕もないとの理由を挙げて,2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしいと回答し,時季変更権を行使して業務に就くことを命じた。
(3) 労働者は,会社の業務命令に反して就業しなかったため,懲戒処分である譴責処分を受け,賞与が減額された。
(4) 労働者は,時季変更権の行使は要件を欠き無効であるとして,懲戒処分の無効確認及び損害賠償を請求した。 

第一審は請求棄却,控訴審は控訴を一部認容

【判旨 判決の要約】破棄差戻し
(1)労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては,それが長期のものであればあるほど,使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり,使用者の事業計画,他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。そのため,労働者が右の調整を経ることなく,長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には,これに対する使用者の時季変更権については,使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。
(2)本件をみると,当該労働者の担当職務を支障なく代替し得る勤務者を見出し,長期にわたり確保することは相当に困難であること,当該労働者の単独配置はやむを得ない理由によるものであること,当該労働者は会社との十分な調整を経ないで時季指定したこと,当該労働者の上司は,当該労働者の時季指定に対する相当の配慮をしていることが明らかである。これらの諸点に鑑みると,会社の時季変更権の行使における裁量的判断は,適法なものと解する。 

【解説・ポイント】
実務上,会社の事情をまったく考慮しない年次有給休暇の時季指定には時季変更権行使をもって対処するほかありませんが,そのような事態を防ぐ意味でも年度当初に従業員の年休取得の予定を把握し,事前に必要な調整をしたり,長期休暇の請求時の対応については,他部門の従業員が応援に入る,もしくは派遣会社から派遣社員を受け入れるなどの方針決定をしておき,予め対策をとっておくことが重要です。