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 この判決は、特定の思想信条を有する労働者による企業秩序破壊のおそれがないにもかかわらず、職場内外で監視し、孤立を図ったことは、労働者の名誉・プライバシー及び職場における自由な人間関係の形成などの人格的利益を侵害すると判断しました。

事案の概要

(1)当該従業員は、労働組合の組合員であり、共産党員であった。
(2)会社は、共産党員である従業員に対して、徹底的な監視・調査を行い、職場での孤立を図った。
(3)上司は、共産党員である従業員のロッカーを無断で開け、私物を写真撮影した。
(4)共産党員である従業員は、会社に対して、思想信条の自由及び名誉・信用を侵害するものとして、不法行為に基づく損害賠償請求を行った。

第一審は請求認容、原審は控訴棄却

判旨・判決の要約 上告棄却

(1)会社は、共産党員又はその同調者であることのみを理由とし、職場の内外で継続的に監視し、職場で孤立させた。
(2)会社は、共産党員の従業員を退社後尾行した。また、ロッカーを無断で開け私物を写真撮影した。
(3)会社の行為は、名誉を棄損し、プライバシー及び人格的利益を侵害するものといえ、不法行為にあたる。

解説・ポイント

 近年労働関係において重要な問題となっている職場におけるパワーハラスメントは、人格的な利益侵害を引き起こしている典型的な事例となっています。
 例えば、上司の部下に対する指導・叱責が、人格権を侵害するパワーハラスメントと評価されるか否かは、それが業務上の権限の範囲を超えるものといえるかによって、裁判上判断されています(A保険会社上司事件、東京高判H17.4.20労判914号82頁参照)。

 企業の防止の取り組みとしては、トップによるメッセージ、ルールの策定、実態の把握、教育、周知などを、解決の取り組みとしては、相談や解決の場の設置、再発防止研修などが推奨されています。